「ずっと・・・」
 
    (プールサイド、顧問の中島優がメガホンで叫ぶ)
 
中島 おい!何してるんや。集合せえや。
 
    (奥から部長の戸田を先頭に5人出てくる。)
 
戸田 遅くなってすいません。
中島 っとに・・・。おい!一人足らんぞ。どうなってるんや。
戸田 えっ!あっすいません。今探して・・・。
加藤 遅くなりました。
 
    (ドタバタとビート板を持って加藤が出て来た。)
 
中島 何してたんや。集合時間いつやと思てんや。
加藤 すいません。クラスの子の頼み事を・・・
中島 言い訳なんて聞きたないわ。泳げへんくせに偉そうなやっちゃな。
加藤 っ!泳げないのは関係ありません
中島 やかましいわ。それに、プール解禁になって何日たつんや。もう3週間や
   ぞ。いつまでビート板持ってるんや。大会近いんやぞ。
加藤 っ・・・すみません。
中島 っとに迷惑なやっちゃな・・・ブツブツ。
加藤 ・・・自分は泳げないくせに(小声)
中島 何かいうたか。
加藤 いえ何も。
戸田 あの。そろそろ練習しませんか?
中島 おっと!そやったな。大会まで約1ヶ月。全員集中して行くんやで。特に
   加藤、お前このまま何も変わらへんのなら大会連れて行かんで。覚悟しと
   けや。
加藤 ・・・はい。
中島 ほな始めるで。
全員 はい。
 
    (全員で準備運動を始める。途中で暗転)
    (学校帰り。戸田と加藤が歩いている。しばらく沈黙)
 
戸田 まあ、いつもの事だー。気にしなくてもいいんじゃない。
加藤 何言ってんの!気にするわよ。3週間も練習してバタ足しか出来ないんだ
   から。
戸田 でも、前よりは上手くなったじゃない・・・えっと・・・バタ足?
加藤 ・・・馬鹿にしてる?
戸田 いや。
加藤 みんな泳げるのに私だけ泳げないんじゃなぁ〜。さすがに落ち込むよ。
戸田 人は人、あんたはあんたよ。自信持ちなさいよ。
加藤 自信って・・・こういう状態でよくそんな事言えるわね。
戸田 言うだけはね☆じゃあ、こういう事にしない?
加藤 こういう事って?
戸田 だから、みんなの前で泳ぐのよ!ビート板なしでさ。そうしたら自信もつ
   くだろうし、先生もきっと見直してくれるよ。
加藤 !何言ってんのよ!無理に決まっているでしょ!それに教えてくれる人も
   いないし・・・。
戸田 大丈夫!私が教えてあげるって。でも時間ないから・・・明後日発表。こ
   れでどう。
加藤 そんな!一日しか練習時間ないじゃない!絶対無理!!
戸田 無理って誰が決めたの?やってみなきゃ分からないよ。
加藤 でも・・・そんな急に・・・。
戸田 大丈夫だって!じゃあ中島先生には私から伝えておくから。
加藤 えっ?
戸田 じゃあまた明日ね。
加藤 那海希(なみき)ちゃん! 
 
    (戸田走り去る。加藤取り残される。)
 
加藤 那海希ちゃん・・・。
 
    (加藤ポツリと呟く)
    (次の日の放課後、プールサイドになる。)
 
福島 ねえ、那海希。中島先生に聞いたんだけど、明日夕海(ゆみ)の泳ぎの発
   表するんだって?
戸田 ええ。そうよ。
福島 まあ、応援したげるわ頑張ってね。
戸田 はいよ。
 
    (トボトボと加藤が出てくる。入れ違いで福島退場)
 
戸田 よっ!早く練習しようよ!
加藤 ・・・ねぇ、本当にやるの?
戸田 当たり前よ!ちゃんと中島先生にも許可もらったし、みんなも応援してく
   れるってさ。
加藤 !みんなも知ってるの?
戸田 もちろんよ。さあ練習しようか。
加藤 ねぇ、那海・・・
戸田 つべこべ言わずにやるわよ。
加藤 ・・・・・うん。
 
    (不安気な表情を浮かべていた。戸田はやる気満々であった。)
   
           暗転
 
    (プールサイド、部員と先生が立っている)
 
戸田 いよいよだね。昨日は一回も上手くいかなかったけど、ぶっつけでやれば
   きっと成功するよ。
加藤 ・・・(軽くうなずく)
戸田 じゃ始めようか。
 
    (加藤は一気に不安気な表情になった。中島はそれを真剣に見つめる)
 
戸田 じゃあ、行くよ。
 
    (加藤はかまえた。全員真剣に見ている)
 
戸田 よーい・・・スタート!
 
    (しかし加藤は飛び込まなかった。全員動揺した。その中で中島だけが
     真剣に加藤を見ていた)
 
戸田 夕海どうしたの?
加藤 ・・・・(無言で逃げ出す)
 
    (加藤下手に逃げる。戸田大急ぎで追いかける。他の部員も動揺しなが
     ら後を追う。中島、心配そうにしながらも上手へ退場。)
    (加藤下手から登場、パントでドアを作り逃げ込み鍵えお閉めた。)
    (戸田、続けて登場)
 
戸田 ねえ、どうしたの夕海?
加藤 ・・・・。
戸田 昨日、いっぱい練習したじゃない。どうしたのよ?
加藤 ・・・・。
戸田 私、教えてあげたじゃない。私、何かした?
加藤 した。
戸田 一体私が何をし・・・
加藤 ふざけないでよ。あなたのせいよ。こんなになったのは。
戸田 えっ?
加藤 泳ぎを教えてくれたのは感謝するわ。でも、あんな強制的にやりたくなか
   った。私は自信持ってやれる時までやりたくなかった。それなのに・・・
   私の意見を聞きもしないで自分の意見ばっかり主張して・・・こんな事な
   ら水泳部なんて入りたくなかった。
戸田 ・・・・。
加藤 もう・・・ほっといてよ。今はもう喋りたくないわ。
戸田 ・・・ごめんなさい。
 
    (戸田が走って下手に退場)
 
加藤 ・・・馬鹿みたい・・・こんな時しか何も言えないなんてさ・・・ごめん
   ね、那海希。
 
    (加藤、膝を抱えて落ち込む。)
   
          暗転
 
    (プール管理室、中島と戸田がいる。戸田が一枚の紙を差し出す。中島
     読みだす。)
 
中島 本当にこれでいいんか?
加藤 はい。もう決めました。
  
    (加藤、真剣に言う。中島がそれを聞いて微笑む)
 
中島 そうか・・・これからも頑張れや。
加藤 はい!
 
    (そう言って下手に退場)
 
中島 あいつもちゃんと頑張れるんやないか・・・よし。そろそろ行くか。
 
    (下手に退場、戸田たち下手より登場)
 
戸田 よーやるかな。
加藤 部長!
 
    (遅れて加藤登場)
 
戸田 夕海・・・。
加藤 なんて暗い顔してんのよ那海希。
戸田 嫌われたのかと・・・
加藤 嫌わないよ。友達でしょ?私達。
戸田 ・・・・ありがとう。
加藤 あとね、私、マネージャーになったから。
戸田 !本当?
加藤 本当よ。泳げないけど・・・みんなといたいから。
戸田 よかった。やめるんじゃなくて(小声)
加藤 何か言った?
戸田 よくやめなかったなぁってね。
加藤 だって・・・約束したじゃない。
戸田 約束・・・したよね。
 
    (二人で手を握る)
 
二人 ずっと、ずっと頑張ろうね。
 
                 END