2人の挑戦
 
 
2人が並んで歩く。
 
七々 私、今日の部活動で先生に怒られちゃったよ。
雪 どうして?七々は走るのが得意で陸上部の中でも一位・二位を争うほど足が速いじゃない。
七々 確かに、私は足は速いけど、英語は出来ないでしょ。
雪 うん。英語のテスト、いつも赤点取っていたよね。
七々 それで、この前のテストで赤点とっちゃって、そしたら部活の先生が「お前の成績が悪いから、部活の評価が悪くなってるんだ!部活をするのもいいが、もっと勉強もしろ!今度のテストで80点以上とらないと部活動停止だ!」って言われちゃって。
雪 大変だね。いつも、赤点ばっかりとっている七々に80点以上取れなんて。
七々 本当だよ。それにテストまであと一週間なのに、これから勉強しても80点以上なんて、絶対取れないよ。どうしよう?
雪 だったら、私が七々に勉強を教えてあげる。
七々 えっ?
雪 それなら、普通に教科書やノートを見るより、勉強しやすいでしょ。私、英語は得意だし、それに、明日からテスト期間で部活ないでしょ。だから、明日から放課後、教室で勉強会!
七々 本当に、英語教えてくれるの?
雪 うん!
七々 ありがとう。でもそれじゃ雪に悪いから、私も何か雪のお手伝いしたいな。何か困ってる事ない?
雪 私はそんなつもりで七々に勉強を教えるって言ったわけじゃないよ。だから、気にしないでよ。
七々 それじゃ、私の気がすまないよ。どんな事でもいいの何かない?
 
七々、話ながらベンチに座る
 
雪 うーん。何か困っている事?
 
考えながら雪もベンチに座る
 
七々 私に手伝える事があったら、何でもいいの。何かない?
雪 うーん、あると言えばあるけど・・・
七々 本当!?どんな事でもいいから、言ってみて。
雪 ・・・私が運動苦手で走るのが遅いのは知ってるでしょ。
七々 うん。マラソン大会でいつも最下位だよね。
雪 その事でみんなからバカにされて、遂についたあだ名がカメ!ひどいでしょ?
 
雪、立ち上がり、七々の方を向いてしゃべる。
 
七々 確かにカメはひどいよね。それで、雪はどうしたいの?あだ名を変えろはちょっと無理だよ。
雪 そんな無理は言わないよ。けど、七々が私を手伝ってくれるっていうなら、私の走りの練習に付き合ってくれない?
 
七々も立ち上がる。そして、雪の方を向く
 
七々 つまり、私に走り方を教えてくれって事?
雪 そんな感じかな。だめ?
 
七々、少し考えて。
 
七々 私じゃ、うまく雪に走りを教えられないかもしれないよ。それでもいいの?
雪 うん!七々さえよければ。
七々 ・・・分かった。私せいいなら、一生懸命教えるよ。
 
雪、嬉しそうな顔をして
 
雪 本当にいいの?
七々 うん。
雪 ありがとう。
七々 ところで、私が走りを教えて、走るのが早くなったとして、雪は何をするの?体育祭やマラソン大会はまだ先だよ。
 
雪、少しうつむきながら考えて
 
雪 そういえば、一週間後の体育で100m走を走るって言ってたよね?
七々 そういえば、そんな事先生が言っていたね。
雪 100m走は確か4人ずつ走るから、その中で1位をとる。そうすれば、クラスのみんなだって、もう私にカメなんていう変なあだ名はつけなくなる!
七々 うん!
 
雪、七々顔を見合わせて
 
雪 じゃあ、私が七々に勉強を教えた後、
七々 私が雪に走りを教える。
雪 休みの日は、午前中に勉強をして、
七々 午後から走りの練習。
 
お互い、顔を見ながらうなずいて
 
雪 いい考えだね。
七々 これならお互い、損もしないし、余っている放課後の時間をうまく使うことができるしね。
雪 それじゃ、明日の放課後に英語の勉強道具持って来て、3ー1の教室に集合ね。
七々 うん!
 
雪、七々。上に向かって拳を上げながら
 
雪・七 それぞれの目標に向かってがんばるぞー!!
 
次の日の放課後、3ー1の教室
2人、机に座って向かいあっている
 
雪 それじゃ、今日から英語の勉強をしていくね。
七々 うん!よろしくね、雪。
雪 1時間しかないから頑張って勉強してね。
七々 もちろん!部活動停止はいやだからね。
雪 まず、自分の名前と出身地・年齢を英語で書いてみて。
七々 分かった。
雪 これは、基本中の基本だから当然出来るよね?
七々 うーん。ここは、I’amだったかな?それともこのまま名前を書けばいいのかな?
雪 ・・・・・・。
 
雪、あっけにとられる
 
七々 出身地ってI’amFUKUI、でよかったのかな?
 
七々、首をかしげる
 
雪 ・・・・もしかして・・書けない?
七々 ごめん。よく分からないや。
 
七々、笑いながら言う
 
雪 今までのテストどうやって点数取ってきたの?
七々 記号問題を適当に書いて、なんとか点数をかせいでたの・・・・。
雪 ・・・それじゃ、先生に怒られるのは当然だよ。授業はいつも何をしているの?
 
七々、楽しそうに
 
七々 机に落書きしたり、友達と喋ったり、マンガ読んだり、携帯で遊んだりしてるよ。すっごい楽しいよ。
 
雪、少し怒りながら
 
雪 授業中はまじめに勉強しなきゃ。
七々 だって、勉強きらいだし、先生の話聞いてると、眠くなっちゃう。
雪 そんなんじゃ、テストで80点以上取るのは、無理だよ・・・。
 
雪、頭をかかえる
 
雪 これじゃ、先が思いやられる・・。
 
同じ日の放課後、公園
2人制服から体操服に着替えている。
 
七々 じゃあ、まず100m走ってみようか。
雪 この街灯からあの橋までがちょうど100mだよね。
七々 うん。そうだよ。それじゃ、私向こう行って、時間計るね。
雪 うん。お願い。
 
七々、橋の方へ走って行く。雪に向かって、手を上げて振る。
 
七々(大声で) 雪、準備出来た?
雪(大声で) いいーよ。
七々(大声で) それじゃ、よーいスタート!
 
雪、合図に合わせて走りだす。七々、ストップウォッチをおす
 
雪 はぁ、はぁ、はぁ・・・
 
雪が100m走りきる。七々がストップウォッチをおす。雪が座りこむ
 
雪 な、何・・・秒?(息を切らしながら)
 
七々 ・・・・19秒。
雪 まぁまぁか
 
雪、立ち上がり、七々の方へ歩いていく
七々 19秒じゃ、1位を取るのは難しいよ。
雪 何秒くらいなら、1位取れるのかな?
 
七々、少し考えて
 
七々 うーん。やっぱり、15秒ぐらいじゃないと無理だよ。
 
雪、ため息をつく
 
雪 たった一週間で15秒台まで走るなんて無理だよ。
七々 やってみなきゃ分からないよ。それにさっきの走りを見ていて、改善する点はたくさんあったしね。
 
雪、驚いて、七々の方を向く
 
雪 えっ!?一回見ただけで?
七々 うん。まず腕を動かさないといけないよ。
雪 腕?腕を動かしただけで、早くなるの?そんな訳ないよね?
 
七々、雪の方を向いて
 
七々 私の言ってる事信じてないな。
雪 だって、足をもっと早く動かせ!とかなら分かるけど、腕を動かすだけで早くなるわけ?
 
七々、雪の背中を押して、スタート地点に戻る
 
雪 ちょっと、七々!聞いてる?
七々 もちろん聞いてるよ。みんな、最初はそう言うんだよ、みんな。
 
雪、スタート地点に戻る
 
七々 とにかく、だまされたと思ってやってみて!
雪、不満そうな顔をしながら
 
雪 分かったよ。
 
七々 、ゴール地点に戻る
 
七々 (大声で)準備出来た?
 
雪、手を振る
 
七々 (大声で)それじゃ、ちゃんと腕をふってね!行くよ。よーい、スタート!
 
雪、腕を振りながら走る
 
雪 はぁ、はぁ、はぁ・・。
 
雪、ゴールする。また座り込んでしまう。
 
雪 はぁ、はぁ、はぁ・・・何秒?でも、どうせ、同じかそれか遅くなっているだけでしょ?
 
七々、雪のほうへ歩いていく。七々嬉しそうに。
 
七々 そんな事ないよ。ほら、18秒。
 
雪、驚いて立ち上がる。七々の方へ走っていく。
 
雪 うそ!?腕をふっただけなのに、1秒上がったの!
 
雪、すごくうれしそうに
 
七々 うん!そうだよ。
雪 七々の言っていた事、本当だったんだー。
 
雪、感心しながら
 
七々 ほら!腕をふるだけでも、全然違うでしょ。
 
雪、何度もうなずきながら。
 
雪 うん!うん!
 
七々、雪の方を向きながら
 
七々 それじゃ、次は17秒台目指して頑張ろう!!
雪 うん!
 
 
1週間後、英語のテストの日
雪、七々2人で玄関に立っている。
 
七々 私の英語のテストは3時間目にあるの。
雪 私の体育の時間は5時間目。
七々 じゃあ、私の方が先だね。・・・・本当に大丈夫かな?・・・・80点以上とれるかな?
 
七々、不安そうにうつむく。
 
雪 大丈夫だよ!あれだけ勉強したじゃん。それに、昨日やった小テスト、90点以上とれたじゃない。
 
七々、顔をあげて、雪の方を向く。明るい顔で。
 
七々 ・・・そうだね。あれだけ勉強したんだから、大丈夫だよね。
 
雪、力強く言う
 
雪 そうだよ!自信持って。私も体育の100m走頑張るから!!
七々 うん!そうだね。でも、私達別々のクラスだから、授業中一緒にいれないね。
 
雪、残念そうに
 
雪 それはしかたないよ。
七々 そうだね。じゃあ、今日の放課後3ー1の教室に集まろう。
雪 うん!そうしよう。
 
雪、七々上に向かって拳を上げながら。
 
雪 それじゃあ、お互いの
七々 目標に向かって
2人 頑張ろうー!!
 
 
放課後、3ー1の教室
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴る
雪が1人で教室のいすに座っている(後ろの方)下を向いて
ガラガラ
前のドアが開く。七々が下を向いて入ってくる。
雪が顔を上げて
 
雪 ・・・七々どうだった?
 
雪、明るそうに聞く
七々、もっと下をうつむいて、入り口で立ち止まる。
 
七々 ・・・・57点。
 
雪、驚いて
 
雪 えっ!?どうして?昨日の小テスト90点以上とれたのに!
七々 ・・・実は昨日、雪に勉強を教えてもらった後、もっと勉強しようと思って夜勉強していたの。そしたら、徹夜しちゃって・・・・。
 
七々、暗い声で
雪、聞きにくそうに
 
雪 ・・・・それで、どうしたの?
七々 ・・・・テスト中、眠くなっちゃって、頑張って半分まで書いたんだけど、そこで寝ちゃって・・・・。
雪 ・・・書けなかった?
七々 うん。そしたら、テスト終わっちゃって・・・。
 
雪、七々うつむく。七々顔を上げて明るい声で雪にむかって
 
七々 私はだめだったけど、雪は100m走で1位とれたよね。だって、昨日練習したら、14秒台行けたじゃない。ねっ?そうでしょう?
 
雪、下を向いたまま
 
雪 ・・・・4位。最下位だった。しかも、過去最悪の21秒・・・
 
七々、驚いて
 
七々 どうして!?あんなに昨日速く走れていたじゃない!
雪 私も七々と同じで昨日の練習の後、ずっと走っていたの。そしたら、今日の体育で筋肉通になって・・・・。
七々 ・・・・えっ?それじゃあ、まさか・・・
 
七々、聞きにくそうに
 
雪 足が痛くなって、そしたらみるみるうちに・・・みんなに追い抜かれて・・
 
七々、悲しそうな顔で
 
七々 そっか。・・・2人共だめだったんだ。
 
雪、下を向く。しばらくの沈黙
七々、顔を上げて、雪の方を向く。七々、力強く
 
七々 でも、私・・・諦めないよ。
 
雪、驚いて、顔を上げる。そして、七々の方を向く
 
雪 えっ!?
七々 まだまだチャンスはあるんだよ。部活動停止になっちゃたのは辛いけど、次のテストではもっともっと頑張って、今度は100点を目指す!そして絶対、部活をやる!!
 
雪、しばらく黙って、そして雪も力強く
 
雪 うん!私もあだ名が変わらなかったけど、まだまだチャンスはある!私ももっともっと練習して、今度こそ1位になる!そして、みんなを見返すの!!
 
雪、七々お互いの顔を見て、力強く
 
七々 そうだよ。こんな所であきらめちゃだめ!
雪 次のチャンスが来たら、絶対みんなをビックリさせるんだから!
七々 じゃあ、次までもっともっと勉強しよう!
雪 私ももっと練習する!
 
雪、拳を上げて
 
雪 それじゃあ、次の体育には私は100mで1位をとる!
 
七々も拳を上げて
 
七々 私も次の英語のテストで今度は100点をとってみせる!
 
雪、七々声をそろえて
 
雪・七 お互い頑張ろう!!
 
END