『証明写真の女子高生』
トモ
リエ
サカ
放課後 陸上部部室
リエが履歴書を見つめて思いつめている
と、いきなり意を決したように、リエ、ものすごく笑う（笑顔を作る）
そして次々に面白い顔をしていく。そこへトモが入ってくる。
トモ すいません。遅れました。
リエは気づかない。必死で顔を動かしている。
トモ （リエの顔を見て）ウワッ！先輩、どーしたんですか？
リエ ！！（その時の表情のまま固まる）エッヘヘヘヘヘヘヘ。
トモ 気持ち悪いですよ。
リエ えっへっへっへっへ…うわぁーん！（泣き出す）
トモ 先輩！？どーしたんですか！？
リエ …うち、家計が苦しいのよ。クソ親父はリストラされたのよ…。おかんはそのせいでスーパーでパートなのよ。弟は、小1と中1、今から金がかかるのよ…働かなきゃいけないのよぉー。
トモ ……。大変ですね。で、それが何がどうしたんですか？
リエ 10社…。
トモ え！？
リエ 10社落ちたの。福井信用金庫もセーレンも北島建築事務所も…あと南整骨院もあと…えっと…もー忘れたけど全部落ちたの！
トモ 要するに、就職試験に落ちまくってるってわけですね。
リエ ……。
トモ 何でですかね。（とリエの履歴書を取り上げる）
リエ あ！！駄目！！
トモ （読み上げる）時田りえ、1989年4月22日生まれ。先輩4月22日生まれなんですかー。422（しにに）ですね。
リエ ！！やめてよ、不吉だから。｢アースディ｣って言ってよ。
トモ アースディ？？
リエ そう。4月22日は地球の日なの。
トモ へぇ〜。趣味、読書。ウソですね。先輩が本を持ってるところ見た事がありません。
リエ （ズーンと沈む）
トモ 長所、明るくて気が利く、陸上部では部長をまかされ、リーダーシップがある。あー、大ウソですね。
リエ トモちゃん…。
トモ 部長ですけど、それは三年生が1人しかいないからですよね。あと実際に仕切ってるのって、先輩じゃなくて私ですよね。
リエ ……いいじゃーん！それくらいぃー。将来かかってるんだからー。
トモ （履歴書を返して）ま、いいですけどね。で、何で落とされるか、考えてるんですか？考えなきゃ、また次も落ちますよ。
リエ ……一応、原因は分かってるって言うか…。
トモ 何ですか？
リエ えー、言うのー？
トモ 別に言いたくないなら、言わなくても良いですけど。
リエ え、ヤダ！言いたい！
トモ じゃあー…
リエ あー、やっぱ言いたくない。
トモ じゃ、聞きません。
リエ やっぱウソ！！言う！！
トモ （あきれて）ハイハイ
リエ ちょっと、真剣に困ってるの。ちゃんと聞いてよ。
トモ 分かりましたよ。
リエ 実は…ね…写真なの。
トモ え！？
リエ（かなりためらい、悶えそして）証明写真なの！！あのね、証明写真ってどうしてあんなに上手く撮れてないのかしら！？笑って、すっごく可愛い笑顔で撮ってるはずなのに、明らかに可愛くないのよ！！入社試験の面接官なんて、皆オヤジじゃん！？写真可愛かったらきっと受かるのよ！！私の証明写真にうちの家計がかかってんのよ！！（とリエ一気に喋る）
トモ ……（物凄い落ち込んで、深刻な表情。泣いててもいい）
リエ どーしたの？
トモ ……。
リエ ちょっと。トモまでテンション下がんないでよ。
トモ ごめんなさい。
リエ 何が？
トモ あたし、先輩の気持ちも知らないでひどい事言っちゃいました。
リエ トモ…。
トモ 先輩めっちゃ悩んでるのに、なんか面白半分で…ゴメンナサイ…。
リエ いいよ。そんなの。私もなんか言ったらすっきりしたし。
トモ …実は…実はあたしも先輩と同じなんです…。
リエ え？
トモ あの、あたし、特進じゃないですか。特別進学コース、略して特進じゃないですか。つまり、めっちゃ勉強できる奴らの一人って事じゃないですか。
リエ それはさぁ、商業の私へのあてつけ？
トモ 別にそんなつもりは無いんですけど。とにかく、うちのコースは一年生のうちに絶対に英検準二級に受からなきゃいけないんですよ！！でもあたし2年生になっても受かってないんです。
リエ あー、特進でもダメな奴っているよねー。あんたみたいな。
トモ ……。それでこの間英語の和岡先生に呼び出されて「お前なー、2年のうちに準２級とれんかったら、点数やらんぞー？留年じゃー！」って言われたんです！
リエ …。
トモ 他の子は、もうとっくに受かってるんですよ。あたしだけ受かってなくてぇー！留年なんて困るんですぅ！！あたしん家って、父親大学教授で、兄ちゃんなんて東大生じゃないですか！！
リエ イヤミな家族だね。
トモ そんな中であたし高校で留年なんかしたら、家でも学校でも居場所無いじゃないですかー！！
リエ 勉強すればいいんじゃない？
トモ 違うんです。
リエ 何が違うの？
トモ 自分で言うのもなんですけど、あたし英語得意なんですよ。英検も筆記はいつも受かるんですけど、面接で落ちるんです。それってやっぱ証明写真だと思いませんか！？
リエ ！！
トモ 見てください。（生徒手帳を出して一瞬で閉じる）恥ずかしいんですけど、顔が引きつってますよね？
リエ え、あんまり見えなかったけど…。
トモ 引きつってるんです！！！
リエ あーうん。引きつってるかなぁ…。
トモ もっとスマートにエレガントにナチュラルに笑った写真なら、面接官もきっと寛大に見てくれると思うんです！
リエ ！！そーだよね！やっぱ実物と写真にギャップがあると、受からないんだよね！
トモ そーなんです！！
リエ トモ！！
トモ リエ先輩！！
二人 仲間だー！！！…（ため息）
と、そこへサヤが入ってくる。
サヤ 遅れましたぁー。っと何？この空気ため息が重い！！
トモ 重い？
サヤ ハイ。
トモ はぁ…。
サヤ ほら、ため息。（右手で持つふり）
リエ はぁ…。
サヤ ほら、ここも。（左手で持つふり）
トモ はぁ…。
サヤ もー、持てません！（右足で持とうとする）
トモ バカ。遅いよ。
サヤ すいません。
リエ 何かあったの？
サヤ はい。留学の説明会が。
リエ あー、留学ねぇ。いー身分だね。こっちが就職で死ぬほど悩んでるのに。
サヤ はぁ…。でも仕方ないですよ。ほら、自分英語留学コース、略して英留っていう、うちの学校の目玉的コースにいるわけで。ティーチャ―達の期待をいっしんに背負ってるわけで…。留学も結構大変ですよ？
リエ ムカツクわ。
トモ ムカツきますね。
サヤ え…。
リエ 留学できなくたって、生きていけるじゃん！
トモ 留学できなくたってサヤ、あんたは2年生になれるじゃん！
サヤ …何スか？それ。
リエ 就職しないと家計が…うちの家族は、のたれ死ぬのよ。
トモ 英検に落ちたら、3年生になれないのよ！
サヤ …？？意味が分からないッスよ。就職すれば良いじゃないッスか。英検に受かればいいじゃないッスか。
トモ 出たよ！！英検1級取ってるやつは…。言う事がのんきで良いよね〜。
サヤ あ、その言い方、イヤな感じ！
リエ あんたみたいに、何の悩みも無く生きてる奴はいいなって言ってるのよ。"イヤな感じ"なんかじゃないわ。
サヤ 自分にだって、悩みくらいあります。
トモ 何よ？
サヤ そんなの、言えないッス。いくら大好きな先輩達でもそんな…留学できないかもしれない。日本から出れないかもしれない！…なんて絶対言えないッス。
トモ 聞きました？
リエ うん。「人の不幸はハチミツの味」だね。
トモ 先輩「蜜」です。「蜜の味」です。
リエ どっちでも一緒よ！
トモ えー。
リエ とにかく。私達だけが悩んで、あいつが悩んでないなんてムカツクけど「留学が出来ない」となると別よ。
トモ そーですね。
リ＆ト ニヤニヤ
リエ サヤちゃ〜ん。先輩達に話してごら〜ん？
サヤ え！？
トモ どーして留学出来ないの〜？どーして日本から出れないの〜？
サヤ 何故それを！？親にも言ってないのに！！
リエ さっき、全部自分で言ってたよね。
サヤ …･･。イヤーーーーーーーーーーーーーー！！
トモ 話してごらん。話したら楽になるよ。
リエ 先輩達を信用して。きっと良い相談相手になれるから。
サヤ …先輩……でも…やっぱ……。
リエ 思い出しな。春の選抜陸上地区大会を！あん時3人しか部員がいなくてリレーに出場できなかったよね。
トモ くやしかったよね。でも…
リ＆ト そのくやしさを3人で乗り越えて、頑張ったじゃない！！
（と、この辺はトモとリエがわざとくさぁ〜く言う）
サヤ …。
リエ そんな私達にも、話せないほど深刻なの？
サヤ …先輩。実はパスポートなんです。
トモ パスポート？
サヤ はい。パスポートといえば、入国・出国にはかかせない大切なものですよね…。そしてそのパスポートの中でも、最も重要なのが証明写真なんです。
リエ ！！
トモ ！！
サヤ 何度撮ってもダメなんです。顔が…顔が…！本当の自分と写真の自分が違いすぎて、きっと本人じゃないって事で出国させてもらえないッスー！
リ＆ト サヤァー！（抱きつく）
サヤ （ビックリする）
トモ あんたの気持ち
リエ よーく分かる！！
サヤ えぇぇ！？何スか！？
トモ あたしも、先輩もサヤと同じなんだよ！
リエ 証明写真が上手く撮れないのよ！
サヤ ！！！
リエ 大問題だと思わない？サヤ、あんたは何のために英留に入ったの？
サヤ そりゃ、国際的な感覚を身に付けて、日本と海外の掛け橋になるんス！！
トモ そーでしょ！？でもこのままじゃ、掛け橋どころか、国際的感覚も身に付かないし、その前に一生日本国から出られない！
サヤ いやだぁー！！！
リエ トモ、あんたもよ。3年生になれなかったらどうなる！？
トモ ……。
リエ 家では大学教授の父に散々イヤミを言われ、
サヤ 学校では年下の友達に囲まれ「あの人、本当は3年なんだけど留年したんだって〜」
リエ と影で言われて、もともとのタメの友達とは徐々に疎遠になり、
サヤ やがて一人ぼっち…。
トモ あ"ぁー！
リエ ってことになりかねないのよ。
サヤ そういうリエ先輩だって、就職決まんなかったらやばいッスよ。
リエ うっ！
トモ 就職できずにフリーター生活。父は毎日ハローワーク。母はユースでパート生活。
リエ （倒れこむ）
サヤ 弟達は給食費が払えなくなり、家は差し押さえられ、家族5人は…。
リエ やめてー！！
３人ぐったり。
リエ どうにかしなきゃ。ねぇ、どうしよう！！
トモ ここはやっぱり、諸悪の根源「証明写真」をどうにかしなきゃいけないですよ！
サヤ そうッスね！
リエ 笑顔よ！
ト＆サ え？
リエ ナチュラルでスマートでエレガントでキュートな笑顔！！
トモ それをどーするんですか？
リエ 練習するのよ。
サヤ なるほど！！
リエ 私、気づいてたのよね。
トモ 何をですか？
リエ 証明写真は比較的真顔が多いのよ！やっぱり女は笑顔が一番キュートなの！
トモ そーですかね？
リエ そーよ。私、思うんだけど笑顔って人間の表情の中で一番難しい顔だと思うのよ。
サヤ なるほど。
トモ でも笑顔の練習って何やるんですか？
リエ 笑ってみなよ。
トモ え？
リエ 笑ってみなって！！
トモ え〜？
リエ 笑ってみろって言ってんだよ！！
トモ ………アハハハハハハハハハハハハ！！
リエ 違うよ。声じゃなくて、顔！え・が・お！！
トモ あぁ！（にやっ）
サヤ うわっ！！トモ先輩、それキツイですよ！それじゃダメですよ！
トモ 何それ！？じゃぁサヤもやってみなよ！
サヤ （もじもじしてにやっ）
リエ あー…それじゃぁ出国できないわねぇ。
サヤ じゃ、先輩もやってください。
リエ えっえ〜…（にやっ）
ト＆サ ……。
リエ ちょっと。何か言いなさいよ。
トモ あは。なんて言うかコメントしずらいっていうか。
リエ 何それ。
トモ 言ったまんまです。
リエ ふーん。私さ、プリクラなら自信あるのよ。プリクラなら確実に超可愛く、ありのままの自分を写真に収められるのよ。
トモ それ、ありのままの先輩じゃないですよね。プリントクラブ、略してプリクラ、略してプリ…どこまで略すんだよ。って感じですよね。なんでも略せばとりあえずカッコイイみたいな。どーかと思うんですよ。最近のこの風潮って言うんですか？
リエ さぁ…。
トモ とにかく、おかしいと思うんですよ。
リエ へー。
トモ あれ？何の話でしたっけ？
リエ えーっと。プリントクラブ？
トモ あぁ、えっと。あーそうそう。そうです。先輩、プリクラってものは基本的に可愛く写るんですよ。可愛くない子はちょい可愛めに。可愛い子は超可愛く。超可愛い子はもー芸能人かってぐらいに、本当の自分より10％は確実に可愛く写るんですよ。これを世間ではプリクラマジックって言うんですけどね。
リエ 何が言いたいのよ。
トモ 要するに、プリクラって一種の詐欺なんですよ。
リエ じゃぁ何！？そのプリクラを自信あるって言ってる私は詐欺師！？
トモ あー、そうかもしれませんね。
サヤ（ずっと考えていたようだ）あの…
リエ 何？
サヤ 自分思ったんスけど、やっぱ問題は笑顔のキープだと思うんスよ。
トモ 笑顔のキープ！？
サヤ はい！ずっと考えてたんスけど、証明写真って何か気が抜けたときに撮られるって感じしません？
トモ あー、分かる！なんかめっちゃ笑ってるのに、なかなかシャッターおりなくて「アレ？」って思った瞬間に押されるの！
リエ あぁ！！そっかぁ！！
サヤ で、自分考えたんですけど、一番笑顔にならない状況で笑顔保てたらバッチリじゃないですか！？
トモ なるほどね。
リエ でも、その一番笑顔にならない状況って何よ？
サヤ マラソンです！！
トモ はぁ！？
サヤ いや、自分達ってやっぱ陸上部じゃないッスか。
トモ んー、あー、かもねー。
サヤ その中でマラソンってずっと笑顔キープして走ったら、かなり効くと思うんですよ。
リエ なるほどね。そーかも。てか、そんな気がしてきた。
サヤ でしょ！！
リエ でも、その前にキープする笑顔の練習よ。さっき3人ともダメだったでしょ。
トモ そーですね。でも改まって「笑え」って言われても、出来ないですよ。
リエ 自然に笑ってる時ってどんな時？
サヤ 美味しい物食べてる時ッスかね。
トモ 例えば？
サヤ 肉！
リエ あー、サヤ肉好きだもんね。
サヤ はい！！
トモ じゃ、好きな食べ物思い浮かべて笑うってのは、どうですか？
リエ それ、いいねー！！じゃ、早速。せーの
と、それぞれ好きな食べ物を思い、にたぁっとする。
トモ り・ん・ご（にたー）
リエ ク・ッ・キー（にたー）
サヤ にくぅ〜（にたー）
互いの顔を見合って。指を指し
三人 気持ち悪い！！！
リエ ダメね。
トモ …お笑いってのはどーですかね。
サヤ どーゆー事ッスか？
トモ すっごい面白いコントとかを見て、笑えば超ナチュラルだと思わない？
サヤ あー！
リエ ビデオ！！ビデオ借りてきて！トモ、走るのよ！
トモ ハイ！！
トモ出て行く
リエ サヤ、あんたは職員室からビデオデッキ借りてきて！！
サヤ ハイ！！
サヤ出て行く
リエ （思いつめた表情）きっとうまくいくわ。そして私は就職するのよ！
サヤ入ってくる
サヤ 持って来ましたー！
リエ よくやった！
２人、テレビに配線する
トモも息を切らして入ってきて
トモ 借りてきました！！「はねるのトビラ」です！初期だから面白いです！！
リエ よし！
ビデオセットして
リエ 行くわよ…（再生）
三人 ………ギャッハハハハハハハハハハハハ！ヒー！うっわぁー！！ヤバイヤバイ！！アハハハハハ！と大爆笑。互いの顔を見て笑いが止まる。
トモ ダメ…ですね。
リエ こーなったら、奥の手ね。
サヤ 奥の手？
リエ そう。顔の体操よ。題して「フェイス エクササイズ」！
サヤ そのままですね。
リエ （咳払い）やっぱり顔の筋肉一つ一つを動かさなきゃいけないのよ。
トモ 具体的に何するんですか？
リエ 私の言うとおりに顔を動かすのよ。
サヤ はい。
リエ 両目を見開く、唇を上げる、目じりを少し下げる、口を開く、口を閉じる…。これを10回やるのよ。始め！！
三人顔の体操をやり始める。
リエ よし！やめー！もう一度３人で、せーの！
もう一度体操をする。そして最後の顔を作ったまま互いに見合って、
三人 完璧ー！
トモ じゃ、この顔でマラソンしましょーよ。
リエ そーだね。
サヤ よっしゃー！
三人、笑顔で走る。
三人 はぁ、はぁ、はぁ。
トモ ひぃ〜！顔の筋肉がぁ…！
リエ でもかなりキープできるんじゃない！？
サヤ そうッスね！
トモ もしかしてあたし達、証明写真撮れるんじゃない！？
サヤ いける気がしますっ！！
リエ よし！行くか！！
三人すごく良い笑顔を残して退場。
夕焼け。時間がたった感じになる。
どんよりした３人が入ってくる。そして、ドサっと座る。
誰も何も言わない。
リエ ねぇ。
トモ はい。
リエ どーゆーこと？
サヤ 世の中って冷たいッス。
トモ 陰険。
リエ くそオヤジ！！！
サヤ もぉ、絶対あそこでは現像しない。
リエ あの写真屋。絶対笑顔じゃない時狙った。
トモ と、ゆーより笑顔崩すよ―な事言ってきたりしてね。
サヤ 完全に自分達の努力を無視してたッス。
リエ 証明写真機は…
トモ なんかプリクラみたいでしたけど…。
リエ うまくいかなかったわよね。
サヤ 嫌がらせッス。機械まで自分達をあざけるッス。
三人 ……。
リエ なんかバカらしくなってきたわ。たかが証明写真なのに。
トモ でも先輩。証明写真が出来ないと…。
サヤ たかが証明写真、されど証明写真ッス。
一同沈黙。
三人 あの（さ）
リエ 何。
トモ 何ですか。
サヤ 何スか。
リエ トモから言いなさいよ。
トモ え、あたし！？…サヤ言いなよ。
サヤ 自分ッスか！？でも、なんていうか…。
リエ なんていうか？
サヤ ……。
トモ 証明写真の所為なんですかね。
リエ どういう意味よ。
トモ だから、英検落ちるのですよ。本当はもっと他に理由があるんじゃないですかね。
サヤ ……。
トモ サヤだって。良く考えたら、そこまで本人と区別できないほどヤバイ写真じゃないと思うんだけど。普通に留学できるんじゃないの？
リエ 何言ってんの？証明写真の所為で私達すっごい困ってんだよ。そうでしょ。だから練習とかしたんじゃん。
トモ そーですけど。そーじゃないです。
リエ 意味分かんないわよ。
トモ あたし、薄々気づいてたんですよ。てか、練習やったりしていくうちに、もしかしてあたし達間違ってんじゃない！？って。
リエ やめてよ。
トモ いくら世の中でたらめな社会になっても、さすがに英検とか就職の面接官が写真で人判断して合否決めるって、それやっぱ無理あると思うんです。
リエ ……。
トモ あたし帰ります。帰って面接の練習します。
サヤ あ、トモ先輩。
リエ ……。
サヤ 自分も帰りますね。先輩、思うんスけど写真って大事だし、でももっと大事なものもあるんじゃないかって思うんスよ。証明写真ってやっぱ自分達の敵だと思うんスよ。だってやっぱ全然上手く撮れないッスもん。
サヤ帰る。
リエ （ため息）時田リエです。長所は明るく…あ、違った。仁愛女子高校から来た時田リエです。御社を希望した動機は…動機は…。
足音。凄い勢いでトモが入ってくる。
トモ 先輩！！すっごく良い事思いつきました。あたしってカメラの前だとやっぱ緊張しちゃうんですよ。だから、カメラ意識するのをやめて、さっきの笑顔をキープして、あと、あのカシャって音が注意を失わせるんです。だから耳栓して…
リエ トモ、あんた勉強しに帰ったんじゃないの！？
トモ え！？あ！！なんでココに…。あ〜、しまったぁ。だってなんか、もう写真が気になって気になって。
リエ でも勉強しないと受からないって、それがトモの答えでしょ？
トモ そーだけど。でも、なんか思いついたらもうとりあえず居ても立ってもいられなくって。
リエ バカじゃない。
トモ ひどーぉい！人のことバカとか言わないで下さいよ。とにかく耳栓です！
リエ 耳栓ね。やってみる価値はあるかもしれないわね。
トモ でっしょー？？
そこへサヤが入ってきて
サヤ リエ先輩！分かりました！！やっぱ笑顔って言っても恋なんですよ。恋する女の可愛さに笑顔をプラスされれば、かなり良い笑顔になると思うんです。好きな男のこと考えて、そいつに笑いかけるんスよ！そーすれば、もっと良い写真撮れますよ！！（と、一気に言い切るサヤ）
トモ あのさー、さっきも言ったけど。サヤ、あんたは写真がブサイクでも出国できるのよ。
サヤ そんなの関係ないッス。今、自分は帰ろうとして考えたッス。留学前に自分は何をすべきかって。そしたらとりあえず、目の前の難題の解決が大事だって思ったッス。
リエ ぷっ…ハハハハハ。バカだよ、トモもサヤも。（トモに）勉強した方が良いと思うよ？
トモ しますよ。でも、その前に証明写真です。
リエ あ、そう。留年大丈夫？
トモ あたし特進ですよ？父親大学教授ですよ？兄貴東大生ですよ？
サヤ 初耳！！
トモ あれ？言ってなかった？
サヤ イヤミな家族ッスね。
リエ やっぱそー思う？ヤな感じよね。
サヤ はい。
トモ とにかく、やりますよ。あたしは！！
リエ 私もやるわよ。私は信じてるわ。証明写真が上手くいけば、受かるって！！
サヤ 大事なのは目の前の難題ッス！
トモ よっしゃー！
リエ じゃ、今トモとサヤが出した案を採用して…
三人ヒソヒソ話
三人 OK〜！！
サヤ 上手く行きそうッス。
トモ 打倒！証明写真！！
リエ ファイトー
ト＆サ オー！！
カシャッという音とともに、一瞬暗転（フラッシュのイメージ）
三人がバラバラに座っている。
トモ 先輩。夏の地区大会なんですけど、先輩50mと何に出ます？
リエ リレー。
トモ あの、先輩。あたしたち3人なんでリレーは…
リエ サヤとトモが2回走ればいいじゃん。
サヤ 無理ッスよ。
リエ えー。
トモ てか、まだ先輩が部長なんですけど。
サヤ あ、トモ先輩。自分ハードルがいいッス。
トモ だからさぁー。
リエ ねぇ、数列って何。
トモ 数列？そんなの簡単じゃないですか。
リエ ムカツク。
トモ ま、特進ですから。
リエ 商業だって大変なのよ。大学生が偉いなんて間違ってるわよ。
サヤ 自分ハードルが…
トモ 分かったわよ。
リエ ねぇ、3人でリレーできる方法とか無いの？
トモ まだ言ってるんですか。
サヤ 練習でなら出来ますよ。
リエ 大会でよ。
サヤ 無理です。
リエ あーぁ。最後の大会なのに。
トモ 先輩だけじゃないですよ。
リエ は？
トモ サヤは来年オーストラリア。先輩は卒業。あたしは勉強が忙しくなるだろうし…。個人で成績残せる競技に出ましょうよ。
サヤ そうッスね。じゃ、やりますか。
トモ そーだね。なんか最近全然やってなかったし。
リエ えー、練習？
三人練習の準備を始める。
着替えたりしてやる気が出てきた頃に、
校内放送 3年2組の生徒は卒業アルバムの個人写真を撮ります。今すぐコミュニティーホールに来て下さい。
「個人写真」という言葉に固まる三人。
そしてゆっくりリエを見る。
リエ 何よ。
トモ 先輩って、
サヤ 3の2でしたよね。
リエ （ドキッ）うん、まぁ、ね。
トモ 呼ばれてましたよ。
リエ 分かってるわよ。
一同沈黙。
リエ、一歩一歩部室から出て行く。
トモ ……。
サヤ ……。
トモ 練習する？
サヤ あ、はい…。
2人正面を向いて
トモ １・２・３・４
サヤ ５・６・７・８
と体操を始めるが、それは「フェイスエクササイズ」である。
徐々にサスになる。フェイスエクササイズをする二人を残して幕。
完