<無題>
 
 
喫茶店。
テーブルひとつ、椅子二つ。
姉が座っていて、メールをしている。妹が入ってきて、座るが顔を向けない
 
妹 お・・・お姉ちゃん?
姉 んー?
妹 ごめんね、わざわざ来てもらったのに遅刻しちゃって・・・。
姉 いや・・・・・・・・・・別に・・・。
妹 そう?本当にごめんね。部活がなかなか終わらなくって・・・
姉 別に気にしてないからさぁー・・・話あるなら、早く終わらせて?
妹 う、うん。ごめんね。あ、なんか頼む?
姉 カフェオレ。
妹 わかった。あ、ごめん、ちょっとお手洗いに行ってくるね。
 
妹上手にハケる。 姉、モノローグ
 
姉 あたしには妹がいる。5年前離婚した両親のうち、親父の方についていった、妹がいる。可愛くて、頭が良くて、金持ちで、あたしが持っていないものを
  持っている。あたしは妹がうらやましい。あたしは妹が―――――大嫌いだ。
 
妹が戻ってくる
 
妹 お待たせっ。カフェオレだよね。
姉 ん。あぁ、ごめん。あたしもトイレ行ってくる。
妹 わかった、頼んでおくよ。
 
姉上手にハケる。 妹 モノローグ
 
妹 私とお姉ちゃんは5年前から離れて暮らしている。お父さんとお母さんが離婚して、私はお父さんの所にいったけど、お姉ちゃんはお母さんのところに行った。
  お姉ちゃんと会えるのは、月に1,2回程度だけど、―――でも、離れてくれしていても家族は家族だし。私は・・・お姉ちゃんが大好き。
 
姉、戻ってくる。座るが妹と顔をあわせず、メールに没頭。
しばらく2人とも無言。カフェオレが運ばれてくる
 
妹   ありがとうございます。・・・・あのさ、この前、お姉ちゃんの誕生日だったじゃん?
姉 ん?うん。
妹 だからさ、プレゼント送ったんだけど、届いたかな?本当は・・・・直接会って渡したかったんだけどね、お姉ちゃん都合悪いって言ったから。
姉 あぁ、あの時計?
妹 うん。
姉 あたし携帯持ってるから時計いらないんだよね。ちょうど月末だったし、質屋にもってたら、結構いい値段で売れたよ。
妹 ・・・・そ、そう・・・・・役に立ててよかった!お姉ちゃん、お金に困ってるの?だったら、あ、貸してあげようか!!
姉 ・・・・・・いいねぇ、おじょーサマは。どこからともなく金の湧き出る財布をお持ちのようで。うらやましいわぁー
 
姉ようやく顔を上げて妹をみる
 
妹 ・・・・え・・・・?
姉 金持ちの余裕で貧乏人に恵むのって楽しいの?
妹 いや、私は、そんなつもりじゃ―――――
姉 その可愛い面の下で思ってんのかなぁ?「人にたかるしか脳のないやつが」ってか。(馬鹿にしたように小さく笑う)
妹 ちがっ・・・違うっ、そんなこと思ってないよ!!
姉 どうだかね。(わざとらしくため息)
妹 そんなこと・・・言わなくたっていいじゃない・・・。どうして、お姉ちゃんはいっつもそうなの?決めつけてばっかりで私の話なんて聞いてくれないじゃない!!
姉 今更何いってんの?前からそうだよ、わかってたでしょ。
  (ちょっと間)
  一回言わなかったかな?あたしはあんたが嫌いなの。本当は顔だって見たくないくらい・・・ね?(妹の顔を見てにっこり笑う)
妹 っ、私は、お姉ちゃんが好きだよ!!
姉 あんたのそういうところが大っ嫌いなのよ!!
 
姉、かばんを掴んで勢い良く店を出て行く。下手にハケる。妹財布から一万円札をとりだしてテーブルにおく。上手にむかって
 
妹 おつり要りません!!
 
妹、店を出いく、走って下手にハケる。
暗転
溶暗。川原。あね、下手から入ってくる。息を切らして
 
姉 っ、追いかけてくるな!!!
 
台詞の途中で妹、下手から登場。姉と同じように息を切らしている
 
妹 お姉ちゃん、ちゃんと話きいてよ。私のほう向いて!
姉 (息を整えながら)無理だよ。
妹 どうして!!
姉 ―――――あんたには、一生分からないわよ。手に入れたかったものをあきらめた事がある?大切なものを失ったことがある?
  自分の力だけじゃ、どうしようも、どうにもできなくて・・・っ。
妹 私にだって、分かる!!
姉 馬鹿なこと言うな!!あんたは、・・・あんたは、どんなものだって持っている。あたしが一生かけても手に入らないものをいくつもいくつも持ってる!
  失うことの悲しみも、諦める苦しみも、何も知らない!!!
妹 だから、そうやって決めつけないで!!!(ちょっと間)・・・ふざけるな!!
 
姉、妹の変化に驚く
 
妹 ・・・お姉ちゃんは私に何を求めているの・・?私に、何を押しつけてるの!?
姉 ・・・何が言いたい。
妹 私だって―――諦めた。失った。無くした。・・・逃がした!!
姉 だから何よ!!!
妹 お姉ちゃんばかりが被害者じゃないのよ!?
姉 私はいつだって被害者よ!!
妹 私の話を聞いて!!!(今までで、一番怒る)
 
姉、圧倒されて黙る
 
妹 ・・・・・お姉ちゃん、覚えてる?ずっと前・・・5年じゃない、もっとずぅっと前。・・・お父さんも、お母さんも、お姉ちゃんも、私も
  ・・・家族4人がずっと一緒にいたあの頃
 
妹、姉の方を見るが、姉は顔を背ける
 
妹 あの頃ってさ、欲しいものがあっても、手に入らなかったし、やりたいことも自由にやれなかったよね。・・・でも私達、いっつも笑っていた。 
  何をやっても楽しかった!・・・・・お姉ちゃんと私、いつも2人だったよね。
姉 ・・・・そんなときも、あったね。
妹 私は、この状況は永遠だって思っていた。このまま、皆で、幸せに暮らすんだって・・・さ。
姉 ・・・あたし、は
妹 (さえぎるように)もう少し、聞いて。
  お姉ちゃんは、私がお金をもっているから、「どんなものでも持ってる」って言うんでしょ?
  ・・・そんなことは、ないよ。お金では、手にはいらるものに限界はある。
姉 ・・金があったら、何でも出来る。(つぶやくように)
妹 (首を振って)違う。お姉ちゃんは、間違ってる。・・・私は、・・・大好きだった・・・心のそこから、愛してた『家族』を無くした。
  『お母さん』っていう存在を諦めた。『お姉ちゃん』を、失った―――。
姉 ・・・・・・・・(妹の名前)
妹 久しぶりに、名前呼んでくれたね。(姉の名前)
姉 ・・・親父と、母さんがなんで分かれたか、知ってる?
妹 (首をかしげる)
姉 金のせいなんだよ。
妹 そんな・・・・・。
姉 ・・・金のせいで、あんたの大好きな『家族』が壊れたのよ。
妹 お姉ちゃん、本当はお金が嫌いなの・・・?
姉 ・・・嫌いなのに・・・。大嫌いで、許せないモノなのに―――私はそれに頼らないと生きていけない。結局・・・世の中は金なのよ!!
妹 違う、違う・・・違うよ!!お姉ちゃん、お金のせいで家族がバラバラになったのが、苦しくって、悲しくて・・・悔しいんでしょ!?
  だったら、そこに愛があるじゃない!
姉 私に愛なんて必要ない。必要とされてない!!
妹 私が必要としている!!!(妹、姉をだきしめる)
姉 うそよ!!
妹 私は、お姉ちゃんが大好きよ!!!ずっと前から、今まで、そしてこれからも・・・お姉ちゃんが大好きで、お姉ちゃんが必要で・・・大切なの!!!
姉 ・・・あたしは・・・あんたが羨ましかった。ずっと、あんたみたいになりたかった。認めたくなかった。あたしの汚い部分を全部認めるのが怖かった・・・!
妹 全部、みせちゃって大丈夫だよ。私が認める、私が何もかも受け入れるから・・・。大好きだよ、お姉ちゃん。
姉 (泣く)
妹 もう、意地張らないで。ずっと、一緒にいよう
 
暗転        終わり