<気づいて下さい。私を・・・>
 
 
舞台の中心にて   スポット(心の叫び)
 
聡子 私・・・。我慢したよ・・・。毎日、我慢した・・・
 
ステージ全体明るくなる。
屋上、聡子靴を脱ぎ、手すりに手をかけ、自殺しようとする
 
さ もう・・・無理・・・・・・
 
上手から武男登場、聡子をみつけ、走りながら
 
た おい!!待てよ!!
 
手すりから聡子を勢い良く離す
 
た 君何やってんだよ!!自殺するなんて・・・、馬鹿なことはよせ!!
さ 離してよ!!
 
勢い良く手を振り払う
武男、聡子をじっと見つめ、足のあざに気付く
 
た 君・・・・・もしかして
 
チャイム。聡子走って下手へ消える
 
た お、おい!!・・・・・もしかして・・・あの子
 
暗転
聡子、町を歩く。音響〔ガヤガヤ〕
 
おじさん ねぇ・・・君いくら?(息遣いあらく)
 
聡子振り向く
 
さ え?
お あれ?違うの?
さ あ、そうですよ
お あっやっぱり?で、いくら?
さ そうねぇ〜5万くらいかな〜
 
武男、上手から登場
 
た 俺の妹に手を出すんじゃねーよ。警察よばれたいのか!?
お あっ、いやっあっ通を聞いてただけだよ。ありがとね、君
た 君、大丈夫だった?
 
武男振り向く
 
た あれ?君さっき屋上にいた・・・。こんなところで何やってんだよ!!
さ あんたこそ、こんなところで何やってんのよ
た い、いや俺は夜回り先生を見習って、夕方回りをしていただけだよ
さ は?あんた馬鹿じゃないの?そんなことして意味あるの?
た あっ俺はさ、将来児童相談所の人たちみたいに、子供達を救いたいんだ。だから、こうして今も夜回り先生のマネをして夕方回りをしてるんだ
  (誇らしげに言う)(その途中でそろりと聡子、下手へいく)
  聡子いない
た あれっ?(少し辺りを見回して、下手の方を見て)あっ!いた!おい!待てよ!
 
武男、下手へ走る。しばらくして、聡子、上手から息を切りながら来る
 
さ なんで追いかけてくんのよ!!(凄く怒ったように)
 
武男 何でって・・・だって・・・
さ (ため息)マジウザイ
た ウザイって、俺はたださ・・・ほら!君さっき聞いてなかったろ?俺は夕方回りをしてるんだよ!(誇らしげに言う)
さ 頭、おかしいんじゃないの!?そんなことしたって意味ないよ
た いや、意味は絶対にある。君が今とった行動。話した言葉。俺が夕方回りをしていること。その1つ1つに意味のないものなんて存在しないんだ。
さ ・・・・・・・
た あっそうだ。君、あんな中年のオヤジとエンコーしてんじゃねーよ
さ エンコーなんてしてねーよ。あのオヤジが勝手に話しかけてきただけだよ
た えっ、あっ、そうだったの?ごめん。何も知らないのにエラソーなこといって・・・。本当ごめん!!
さ ・・・・・・・・・・・・・・・ぷっあははははははは
た え?
さ あんたみたいな馬鹿純粋なヤツはじめて見たよ
た 馬鹿は余計だよ
 
2人して大笑い。2人ベンチに座る
 
た あ、そういえば何で屋上にいたんだ?
さ あっあんたには・・・関係ないじゃん?
た 話してみろって。俺は2代目夜回り先生だぜ?
さ こんな話はあんたには全然無縁なことだから・・・
た いいよ。俺、何でも聞くからさ
さ ・・・・・・
た 君、俺と一緒だな・・・
さ え?私は夜回り先生じゃないよ?
た 違うって!!・・・・足に・・・あざ、あるだろ
 
さとこ、あわててかばんで足を隠す
 
た 俺も昔、親にそういうことされてたんだ
さ そういうことって?これは昨日机の角にぶつけただけだよ
た 違うだろ?
 
聡子ためらいながらゆっくりうなずく
 
た 俺は4歳の時、母親にやられてたんだ。そのせいで俺は今、祖父母と暮らしている
 
武男、自分の襟首をめくりタバコの火の後を見せる
 
た ほら、これ、何のあとか分かるよな?
 
聡子、黙ってうなずく。しばらく沈黙
 
さ 私・・・・さ。私さ・・・・・
 
聡子目に涙を浮かべながら
武男そっと聡子をなだめる
 
さ 今日屋上で自殺…しようとしたの。もう何もかも嫌になって・・・。毎日毎日辛くって。家ではお父さんが昼間からお酒飲んでて・・・。
  私が家に帰ると殴ったりけったりする・・・。もう私・・・たえられない・・・。もう、死にたい・・・・・。私なんて生きてても、何の意味もないゴミ人間だよ・・・。
た 君は、ゴミ人間なんかじゃない。人はこの世に生を受けた以上、最期まで精一杯生きなきゃだめなんだ。
さ 何でそんなこと言えるの!?私はもう辛くて辛くて仕方なくて死のうと思ったのに・・・っ私とあんたは似てるから、話しちゃったけど、私の勘違いだったみたい
た いや、勘違いなんかじゃないよ。ただ俺は、幼い頃の記憶は思い出にしたんだ。本当は忘れたいんだけど、忘れたら、なんだか意味がないような気がしてさ
さ ・・・・・・・、忘れる・・・・・?
た そう。忘れるということは大事なことなんだよ。人はな、忘れるから生きていけるんだよ。どんなに辛くても、どんなに苦しくても忘れられるから明日へ
  繋いでいける。俺はそれでいいと思う
さ なんか、哲学者みたい・・・
た いや、そういわれると俺、照れるなぁ〜
さ ・・・・・、変人
た うるさい
 
2人夕日を見つめながら沈黙
 
さ ねぇ、私が生きている意味って本当にあるのかな?
た きっとあるよ。だから、自殺なんて馬鹿なこと考えるのはよせ。生きてりゃ必ずいいことはあるんだから
さ ・・・・ありがとう(照れくさそうに)
た 君、今、今、何ていったの!?(凄く嬉しそうに)
さ だから・・・・その・・・・、ありがとうって・・・
た マジ!?俺、夕方回りしてて今日始めてお礼言われたよ!!マジでうれしい・・・
さ え?初めてなの?
た そうなんだよ。初めてなんだよ。あ〜夕方回りしてて良かった〜。ほらな。意味があっただろ?
さ あっ・・・。本当だ・・・。
た 2代目夜回り先生は嘘はつきませんから
 
聡子微笑。武男立ち上がる。
 
た さっもう暗くなったし帰ろう。俺、家まで送ってくよ
 
聡子、うつむき黙り込む
 
た ・・・・・・家へ・・・帰りたくないのか・・・?
 
聡子、うなずく
 
た でも今日は一度家へ帰ろう。そして明日、学校や警察に連絡しよう
 
聡子うなずく
 
た よしっ!じゃあ帰ろう!
 
聡子立ち上がり、2人は下手へ消える。
 
聡子、下手から登場
学校の屋上。聡子は1人で座って、空を見ている。涙がとまらない。武男上手から登場
 
た いい天気だなぁ〜。けど、君またさぼり?
さ まぁね、さぼり常習犯ですから。あんたは何してんの?
た 俺もさぼり
さ ふ〜ん
た ・・・なんか今日変じゃない?
さ ・・・そう?
た いつも    ?
さ 別に。今日はそんな気分じゃないだけ
た ・・・・君本当に変だよ?熱でもある?
 
武男、聡子の額に手をやる。聡子、振り払う
 
さ やめろよ!!気安く触るな!
 
武男 ごめん・・・・・
 
2人沈黙。武男、ふと思い出したように
 
た そうだ!名前!まだ名前お互い知らないよな?
さ は?
た 俺は木下武男。君は?
さ 私は、谷口聡子
た よろしくな!谷口!
 
武男、手を出す。聡子も手を出す。
 
さ よろしく
た これで俺たちはもう友達だな
さ ・・・・・うん・・・・・・
た ・・・・・本当に一体どうした?具合でも悪いのか?
さ なんでもないから。本当になんでもないから
た でもさ・・・・
さ 大丈夫だって!!
 
聡子、ハッとして右手で口をおおう
 
た ・・・ちょっと左手かしてみろ
さ       ?
た       ?
さ       ?                 リスカしてんだよ!!
た ・・・・・ちくしょう!
 
武男本当に悔しそうな顔で
 
た 俺は人、1人救えねーのかよ!!
さ 木下・・・ごめん・・・・私・・・・・私・・・
た いや、谷口は悪くないんだ・・・。ただ俺は
さ (かぶるように)こんな私!!木下の友達なんかじゃないよね・・・
た は?
さ ・・・・・もう・・・迷惑はかけないから・・・
 
聡子、下手へ走ってくる
 
た ちょっ・・・・・
 
武男、その場に座り込み、頭を抱え込む
暗転
武男の自宅
 
武男の祖母 おかえりなさい。学校どうだった
た あっ、う・・・うん・・・・・
母 何かあったの?
た ばあちゃん俺は・・・人、1人も助けられないやつなのかな・・・・
母 何かあったの?
た 学校で俺の小さい頃に似てるやつがいるんだ・・・
 
母驚く
 
た 俺、その子のこと、助けたかった・・・・。でも、駄目だったんだ
母 武男、一度失敗したからって、あきらめては駄目よ。振り向かずずっと前をみてごらんなさい。武男・・・・・・、目を閉じてごらんなさい
た え?どうして?
母 閉じて御覧なさい
 
武男、目を閉じる
 
母 貴方の前にある道は、今はまだ暗いものなのかも知れない。・・・・それが貴方の運命なのよ。でも、その先には、先が必ずあるから。
  辛くても負けちゃ駄目。そこで負けたら、その先には通はないの。常に前を向いて前進していきなさい
 
武男、目を開けるのと同時に涙をこぼす
 
た ばあちゃん、俺・・・・・
母 もう一度頑張って御覧なさい
 
武男うなずく
武男の携帯がなる
 
た もしもし。あっ山田どうしたんだ?
 
武男携帯を落とす
 
母 武男?どうしたの?
た 谷口・・・・・・・・
母 武男・・・・・・・・?
 
暗転
廊下にて女、上手から下手へ
 
女A この学校の1年でさぁ〜自殺した子いるんでしょ?
女B あっ知ってる。谷口って子でしょ?飛び降りたらしいよ。しかも、この学校の屋上から
女A え!?マジ?もう屋上いけないじゃん
 
武男後ろを見ながら下手から登場。男2人上手から下手へ
 
男A 谷口、自殺したらしいぜ。なんでかな?
男B あいつ、エンコーとかしてたらしいぜ。
男A マジ!?じゃあ俺、一発ヤらせてもらえばよかった
男B マジかよ〜
 
男2人笑う
武男、男2人に近づき、男Aを殴る
 
男B おい!お前何すんだよ!!
た ・・・・・お前らなんかに・・・、あいつの気持ちなんてわからねーんだよ!
 
武男さる。上手へ
 
男B おい、大丈夫かよ
男A あぁ。
 
2人アドリブをいいながら下手へさる。上手から武男現れる。下手にあるポストへ向かい、郵便物を見る。何通かあり、自分宛の手紙を見つけ、中を見る。
 
た 谷口・・・こんなのいつ・・・
 
武男、ハッとして上手へさる。(走って)上手から登場。ふと目にベンチがとまる。
ベンチにすわる。そして手紙を読み始める。
 
た 『木下へ。木下、元気?授業サボってないよね?私はあんたがこれを読んでいる時には元気じゃないよ。きっと。私はこの世界にはいられないの。
   辛いの・・・・・。なんでって思うでしょ?それはね、私・・・このままじゃ、自分の親に殺されちゃうから。どうせ死ぬなら、殺されるより、
   私は自分から死にたい。もう私は十分我慢した。死ぬ前に木下といういい奴に会えて本当よかった。ありがとう。  谷口』
 
武男、手紙を握りつぶし立ち上がる
 
た 何で死ぬんだよ!!死ぬことなんてねぇじゃねぇかよ!!何でだよ!!何でだよ・・・(涙声で)俺が頼りなかったからか?
 
武男、夕日を見つめてポツリとつぶやく
 
た 谷口・・・、ごめん・・・・。俺、お前のことゼッテーに忘れないから・・・。俺、頑張るから。たくさんの人に命の意味教えるから。
  見てろよ。谷口。
 
暗転               終わり