心のヒーロー
in 喫茶店
カウンターの中に舞、正面のイスにたくみ、机の上に鉄が座っている。観葉植物の前に蓮、その下にゆりが体操座り。薄暗い感じ
漫画を読みながら蓮が語り出す。
蓮「私は人と同じように出来ません。個性的といえばそれまでですが、どうしてもいやになってしまいます。他の人が私を非難の目で見てるような気がして怖いんです。」
単語帳をめくりながらゆり語り出す。
ゆり「父も母も私を大切に育ててくれました。クラスの人もみんな親切です。でも、本当の友達は居ないと思います。どうしても心に鍵をかけてしまって胸のうちを明かすことができません。私はこんな自分が大嫌いです。」
ケータイをいじりながら鉄が語り出す。
鉄「オレには特にしたいこともないし、目指すものもない。そんな自分が嫌で嫌で仕方がない、人も信じられない、優しい顔して近づいても腹の中では何をたくらんでるかわからないから、でもそんな風に考えてしまう自分がもっと嫌いだ。」
カクテルを作りながら舞語り出す。
舞「私は愛する人に裏切られました。お墓の中までずっと一緒だと誓ったのに。・・・私はもう誰も信じない。だって裏切られるのが怖いから。また悲しい思いをするのは嫌だから。」
髪をくるくるさせながらたくみ語り出す。
たくみ「僕は半端者。男にもなれず女にもなりきれず。今更あともどりはできない、でもこれ以上先へ進む勇気もない、どちらへも行けない、だからつらいんだ」
舞台がぱっと明るくなる。
-----------------------A
ゆり「私たちって何なんだろうね・・・?」
蓮「へ?」
ゆり「だってそうでしょ?いてもいなくてもかわらない、国民主権とか言ったって結局国の方針とか決めるのはお偉いさん方。私たちの気持ちなんて・・・。」
鉄「そんなこと言ったってよ、直接意見する勇気、お前にあるのか?」
ゆり「それは・・・」
一同沈黙、わりと長めに
蓮パンと手をたたく・
蓮「じゃあさ、戦隊つくらない?」
ゆり・鉄「はぁ?」
蓮「だってほら、漫画とかでよくあるじゃん!正義のヒーローが悪の権力者をたたきのめす!!!そのヒーローに私たちがなるのよ!かっこよくない?」
鉄「ちょと待てぃ!!何でそこで戦隊なんだよ!お前アホか!?」
蓮「ム?アホとは失礼な!戦隊モノは永遠のロマンなんだぞ!?」
鉄「馬鹿かお前!!?いくつだよ?ガキか?そんなんやって楽しいのか?」
蓮「馬鹿でもガキでもありませぇ〜ん。ピッチピッチの乙女ですーだ!」
ゆり「だって蓮、戦隊って・・・(汗)」
蓮「もちろんゆりもやるよねーv」
ゆり「えっ!?」
鉄「おいゆり!こんなのの話まともに聞くなよ!?」
----------------------Aここまで
3人並ぶ
蓮「こんにちはー」。(手をあげる)
ゆり「こんにちは。」(おじぎ)
鉄「ちーっす。」
舞「あら、いらっしゃい。」
蓮「やほ。ママにたくみさん。」
たくみ「やあ。こんにちは。」
鉄「よぉ。相変わらずひまなんだなー。」
ゆり「鉄くん!ホントのことなんだから言っちゃダメ!!!!」
たくみ「結構傷つくんだけどなぁ・・・。」
蓮「まぁ、そう言うなって。」
3人カウンターに座る。
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ゆり「う、うん・・・」
蓮「ああーもう!!2人ともわかってないんだから!」
鉄「わかるも何も明らかにおかしいだろ!?」
舞「あら、私は面白いと思うわよ?」
ゆり・鉄「ママッ!?」
蓮「ほんとですかぁ?やっぱいいですよね?戦隊モノ!」
舞「そうねぇ。ね、私もまぜてもらえる?」
ゆり・鉄「マジですか!?」
蓮「もちろん!大歓迎ですよ!もうっ、ママ大好きv」
舞「ふふっ、可愛いわねぇ。あ、そうだ!たくみちゃんもやらない?」
たくみ「え?僕ですか?」
舞「いや?」
たくみ「当たり前じゃないですか!!!何でも僕がそんなこと・・・」
舞「やるわよねぇ?」(ニッコリ)(目が笑っていない)
たくみ「えっ?」(かたまる)
舞「ねぇ?」
たくみ「ハ、ハイっ、やらせていただきます!!そりゃもう喜んで!!!」
蓮「やりぃっ!」
パンッと舞と手をたたきあう。
ゆり「じゃあ私も・・・」
鉄「ゆりっ!!?」
ゆり「なんか楽しそうかなって・・・鉄くんは?」
鉄「やらねーよ、そんなくだらねーもん。誰がやるかっつの。」
蓮「じゃあ満場一致というわけで、まずは色決めなきゃ!」
鉄「オイ!!!やらねーって言ってんだろ!!?」
蓮「レッドだれにしよっかー?」
鉄「オイ聞けって!おい!!!」
蓮「何?鉄ちゃんやりたいの?」
鉄「当たり前だ!!!・・・いやいやちょっと待てぃ!!!今のナシ!!!」
蓮「じゃあ赤は鉄ちゃんということで!他は〜?」
鉄「なあ、おい!!!」
ゆり「私は落ち着いた色のほうが・・・」
鉄「ゆりまで!!?」
蓮「落ち着いた色かぁ。じゃあ緑とかは?それとも青?」
ゆり「あ、緑いいかも。」
蓮「じゃあゆりは緑ねぇ〜」(紙にかきこむ)
鉄「・・・・・・もういいや・・・。」(鉄、しゃがみこんで「の」の字を書き出す)
舞「私は何色にしようかしら?」
蓮「ママはねぇ〜・・・(考え込む)そうだ、紫とかは?」
舞「むらさき?」
蓮「うん、ママのセクシーなイメージにぴったり!」
舞「あらvありがとv」
たくみ「ママさんは確かに紫って感じですねぇ。」
舞「セクシー?」(ポーズをとる)
たくみ「すごいセクシー」
舞「じゃあ私は紫で。」
蓮「ママ紫っと。たくみさんは?」
たくみ「僕は別に・・・。」
舞「じゃあ、たくみちゃん何色が好き?」
たくみ「色・・・ですか?そりゃピン・・・オ、オレンジ・・・とか・・・。」
蓮「オレンジは駄目ぇ!!!」
たくみ「え、なんで?」
蓮「だってそんな色がいる戦隊ないでしょ!?はい、やり直し!」
たくみ「そんなこと言ったら紫だってありえないでしょ!?」
舞「あら?私を否定するつもり?」
たくみ「え?いや、そういうワケじゃ・・・・・・」
蓮「あぁあー、たくみさん悪いんだぁー」
たくみ「れ、蓮ちゃん!?」
舞「さあ、どうおしおきしようかしら?」
たくみ「ひっ!!!」
ゆり「3回まわって”ワンッ”とかは?」
たくみ「ゆりちゃん!?」
舞「そうね。・・・・・・やりなさい。」
たくみ「えっ!?」
舞「やりなさい。」
たくみ「ハ、ハイッ。」
(たくみ、3回まわって「ワン」をする。)
蓮「じゃあ冗談はここまでにして、他に好きな色ないの?」
たくみ「冗談だったの!!?」
舞「ちゃっちゃと言っちゃいなさい。なんなら私が決める?」
たくみ「いえっ、自分に決めさせてくださいっ!!!」
蓮「おっ?やる気十分ってカンジだな?」
ゆり「ホントだね〜。」
たくみ「戦隊にある色じゃないと駄目なんだろ?」
蓮「もちろんよ!さぁ何色?」(ずずいとたくみに詰め寄る)
たくみ「え、えっと・・・」(ちょっと引く)
蓮「さあ!!!」(さらに詰め寄る)
たくみ「き、黄色とか?」
ゆり「黄色?」
たくみ「え?だめ?」
蓮「たくみさん、カレー好き?」
たくみ「はぁ?」
蓮「だ・か・ら!カレー。好き?」
たくみ「な、なんでそんな・・・?」
蓮「もう、わかってない!イエローはカレー好きってのが定番でしょ?」
たくみ「そうなの?」
蓮「そうなの!で、カレー好き?」
たくみ「まぁ・・・好き・・・かな?」
舞「何?そのあいまいな答えは?」
たくみ「は、はいっ、大好きです!そりゃもう〜・・・」
蓮「よっし!じゃあイエロー決定〜。」
ゆり「そういえばさ、蓮ちゃんは何色にするの?」
蓮「え、私?ベージュとか?」
全員「ベージュ!!?」(鉄復活)
蓮「え、駄目なの?」
鉄「当たり前だ!!!」
蓮「え〜?ベージュがいい〜。」
鉄「だから駄目だって!!!」
蓮「むぅ〜、じゃ、ゴールドは?」
全員「ゴールドォ!!?」
蓮「何よぅ〜駄目?」
全員「駄目だから!!!」
蓮「やだやだぁ〜。ゴールドォ〜」(駄々っ子)
鉄「戦隊にある色じゃなきゃ駄目っつったのお前だろ!?」
蓮「私はいーのぉー。」
鉄「駄・目!!!!」
蓮「ぶ〜、じゃピンクでいいよ。」
たくみ「あ、わりとマトモな・・・」
蓮「そのかわりショッキングピンクよ!!?」
全員「ショッピン!!?」
蓮「もぉ〜これ以上は一歩も譲らないからね!?」
鉄「あのなぁ〜(怒)」
ゆり「ま、まあまあ、マトモな色に決まったんだし・・・ね?」
たくみ「そうだよ!だから落ち着いて!・・・ね?」
鉄「ったく、しゃーねーなぁ。」
舞「ところで連ちゃん。」
蓮「何でしょ?ママ?」
舞「戦隊って・・・一体何をするの?」
たくみ「あ、それ僕も気になってたんですよ。」
ゆり「私も」
鉄「オレも」
蓮「私も」
全員「えっ!?」
鉄「おいコラ言いだしっぺ」
蓮「何ー?」
鉄「何はこっちのセリフだ!!!何なんだよ!!やることわかんねぇまま戦隊やろうとか言ったのか!?」
蓮「ぶっちゃけ・・・・・・うん。」
鉄「ぶっちゃけすぎだ!!!!(怒)」
たくみ「まあまあ落ち着いて。ところでさ」
蓮・鉄「何?」
たくみ「なんで戦隊やろうなんて言い出したのさ?」
舞「あ、そう、それも気になってたんだけど・・・?」
蓮「何でだっけ?」
鉄「たしかゆりが自分たちって何なんだろうとか言い出してそれで・・・」(全員ゆりの方を見る)
ゆり「だ、だって。いてもいなくてもかわらないなんて。私そんなのがすごい嫌で・・・。その気持ちは分かるわよ?でも・・・あなたが悩んでることはもっと他の・・・・・・もっと複雑なことじゃない?」
蓮「ママ、どういうこと?」
たくみ「ゆりちゃん?」
ゆり「私・・・蓮が羨ましくて・・・」
蓮「私が?」
ゆり「うん、だっていつもハチャメチャ
な事して皆をあっと言わせて・・・すごい楽しそうに笑うんだもん。私は・・・いつも書いてある通りのことしか・・・教科書みたいなことしかできなくて・・・
」
蓮(ゆりの言葉をさえぎる)「そんなことないよ!私だってゆりはすごいなって」
ゆり(蓮の言葉をさえぎる)「違うの!!!私そんなこと・・・すごいねとか言われても全然嬉しくない!!!全然喜べない!!!個性のカケラもなくて、作り笑いしかできなくて教科書みたいにしかなれなくて・・・私、そんな自分がすごい嫌なの!!!!」
蓮「・・・・・・でもそれもゆりの魅力でしょ?」
ゆり「え?」
蓮「私はゆりがうらやましいな・・・。ほら、私さ、いつも人と違うことしかできないじゃん。・・・だからさ、みんなのお手本になれるゆりがうらやましくて・・・・・・。私ね、いつも変なことしかしないからさ・・・皆が非難の目で見てるような気がして・・・そう思うとすごく怖くて・・・。」
ゆり「蓮・・・。」
蓮「ほら、私バカだからさ。」
ゆり「・・・・・・。」
舞「私はあなたたち2人ともうらやましいわ。」
蓮・ゆり「え?」
舞「だって今、腹を割って話しできたでしょ?私は・・・5年前に旦那が死んで・・・それも若い女と浮気してたのよ?お墓の中までずっと一緒って言ったのに・・・だから私・・・本とは誰も信じられなくて・・・。・・・私、ダメな女ね・・・。」
たくみ「そんなことないですよ!!!」
舞「たくみちゃん?」
たくみ「だってママ・・・すごい女らしいじゃないですか!!!こんな場だから言っちゃいますけど・・・僕、女性形を求めてるんです。」
全員「えぇ?」
たくみ「でも女にはなりきれなくて・・・かと言って今更男にも戻れなくて・・・。どっちかにしようと毎日必死にかんばってるんだけど・・・でも駄目で・・・。やめようと思って何度もがんばったんだけど・・・やっぱりどっちも捨てきれなくて。・・・僕はこんな自分・・・こんな中途半端な自分が嫌いで・・・。」
蓮「たくみさん・・・。」
舞「たくみちゃん・・・。」
鉄「でもそういうのもいいじゃんっ」
たくみ「え?」
鉄「毎日何かしら努力して・・・なんか目指してがんばってるんだろ?それすげぇかっこいいじゃん。」
たくみ「鉄くん?」
鉄「オレなんかさ・・・毎日、いきたくもない学校何となく行って・・・帰ってもすることないからゲームばっかしててさ。毎日それの繰り返し、特にしたいこともない。目標もない。だからなんか目指してがんばってる奴見るとすげぇうらやましくてさ・・・。」
蓮「鉄・・・」
鉄「そんなこと繰り返したって全然楽しくなくってさ。ほら、何つーの・・・生きがい?みたいなのがずっと欲しくて。ダチと話しててもさ・・・」
ゆり「なに?」
鉄「いやホラ。表面じゃニコニコしてるけどさぁ、腹ん中で何企んでるかわかんねぇじゃん。利用されてるだけとか思っちまって・・・そんなこと考える自分にすげぇ腹立つんだけど・・・。でもな、一度定着した考え方とかって簡単には捨てられなくてよ。だからずっとそんなこと考えてて・・・考えながらダチと話して。つまんねぇよ、毎日。」
ゆり「鉄くん・・・。」
(一同沈黙)
蓮「あはっ♪」
舞「どうしたの?蓮ちゃん。」
蓮「なんかすっきりしたね。」
舞「え?」
蓮「だって皆腹の内明かしちゃったじゃん、ママさんだって誰も信用できないって言ってたけど話してくれたじゃん!!!私達に」
舞「あ・・・」
ゆり「そうだね、なんかスッキリした。」
鉄「オレも・・・。」
たくみ「僕も・・・。」
蓮「でしょでしょ?」
ゆり「うん。なんか心のモヤモヤがなくなったみたい!」
舞「心が洗濯されたかんじね。」
蓮「えへへ〜。そっちのお2人さんも?」
鉄「あぁ、何つーかさ・・・。」
たくみ「自分の中の嫌な部分がぜんぶ流されたってかんじ。」
蓮「ん。私もそーなの。」
ゆり「でも私、以外だったなぁ。」
蓮「何が?」
ゆり「蓮があんなこと考えてるなんて。」
蓮「私もゆりがあんなこと考えてるなんて思わなかったよ」
ゆり「お互い様だね」
蓮「そういうことだね。」
たくみ「でも僕もびっくりでしたよ。」
鉄「え?」
たくみ「ママさんにあんな過去があったなんて。」
まい「そぉ?」
たくみ「だって星の数ほど男たぶらかしてそうなのに誰も信じてないなんて。」
舞「ちょっとそれどういう意味?」(にらむ)
たくみ「あ、いや・・・。再婚しないのはそのせいだったんですね。」
舞「それもあるけど・・・私は本当に好きになる男は一生のうち一人でいいと思ってるの。だからもうこの先結婚はしないつもりよ。」
ゆり「なんかかっこいい〜。」
鉄「意外っつったらさ、たくみさんもびっくりだったぜ?」
たくみ「僕?」
鉄「あぁ。だって女装壁だろ?」
たくみ「う・・・うん。」
じーーーーっと全員たくみを見る
たくみ「な、何?」
蓮「意外と似合うかも・・・。」
ゆり「ホント・・・。」
舞「あら、たくみちゃんの女バージョンすごく可愛いわよ?」
蓮「え?ママさん見たことあるの?」
舞「ええ。」
蓮「いーいなぁー。私も見たい。」
ゆり「私も」
鉄「オレも」
たくみ「え、ええ?」
蓮「みーたーいー。」
たくみ「でもぉ・・・」
蓮「だめぇ?」
ゆり「でもさ、それで女の私達より可愛かったら凹まない?」
蓮「あ・・・。」
鉄「大丈夫じゃねぇ?まあ・・・・・・。いいよな?たくみさん!」
たくみ「えっと・・・その・・・」
蓮「何?鉄ちゃん。そんなに見たいの?もしかして・・・」
鉄「何だよ?」
蓮・ゆり「ホモ?」
鉄「んなワケねーだろ!!!シバくぞテメー(怒)」
たくみ「そうなの?鉄くん・・・。」
鉄「オイコラ(怒)本気にすんな!!!」
蓮「あは♪冗談だって。」
ゆり「でもホントに見たぁい」
舞「たくみちゃん、腹くくっちゃいなさい。」
蓮「そうだよ、恥ずかしがることなんて何もないんだから。」
たくみ「そ、そこまで言うなら・・・。」
全員「やったぁ!!!」(全員手をたたきあう)
ゆり「あ、そうだ蓮ちゃん。」
蓮「何?」
ゆり「結局戦隊どうなったの?」
全員「あ・・・」
蓮「ん〜、もう色まで決まっちゃったしなぁ。」
鉄「もういいじゃん、な?」
蓮「えぇ〜、でも〜。」
舞「気分転換にテレビでも見る?」
たくみ「あ、見ます。」
ゆり「私も」
(連と鉄はまだ言い争っている)
(舞、テレビの電源を入れる)
キャスター「本日未明、指名手配中の鈴木としろうが板垣近くで目撃されたという情報が入りました。付近の住民はお気をつけ下さい。次のニュースです・・・。」
一同沈黙
蓮「よし!!早速私達の出番ね!みんな、行くわよぉ!!」
全員「ちょっと待ってぇぃ!!!!」
一瞬の沈黙、次の瞬間皆笑い出す。
幕が下りる
お終い。