エリジウム
 
     一つの部屋に父、息子(マサユキ)警官2人がいる
 
マサ ・・・母さんはドコにいったんだろう。
父 ・・・分からない。・・・無事だと思うんだが・・。
マサ ・・・父さん、母さんと何かあった?
父 バカな!?そんなことはない!!
マサ でも・・・、他には考えられない。
父 そんなハズはない!!そんなハズはないんだ・・・!!
 
    (気まずい沈黙)
 
マサ ・・・・ごめん。
父 いや、いいんだ・・。
マサ 母さん、大丈夫なんだろうか。
父 無事だと思う。ただの家出かもしれんし・・・。
マサ じゃあ、やっぱり!?
父 違うと言っているだろう!!
警官 まぁまぁ、落ち着いて。今警察も全力で捜査してますから。絶対大丈夫で   す。
父 はぁ・・・・。
    (電話が鳴る。父急いで取る)
 
父 もしもし!?お前か!?・・・・いえ、すみません。・・・はい、ありがと  うございます・・。
警察 どなたからですか?
父 妻の母です・・・。まったく、まぎらわしい。
警官 我が子が心配なのは親としてあたりまえでしょう。そう言わずに。
父 ・・・すみません。
警官 いえ、お気持ちは分かります。
 
    (しばらくの沈黙、また電話)
 
父 もしもし・・・?お前か!?今どこに居るんだ!?・・・えっ!?おい、待  て、おいっ!!
警官 奥さんですか!?
 
    (父、ゆっくりと受話器をおろす)
 
父 妻が・・・、自殺すると・・。
警官 なに!?
父 ど、どういうことだ・・・?ごめんなさいって・・・。
警官 今どこに居ると言ってましたか!?
父 分かりません・・・。けど、波の音が・・・。
警官 分かりました。今すぐ海の付近を探します。吉報をお待ち下さい。
 
    (警官、走り去る)
 
父 どういうことなんだ・・・?やはり俺が悪いのか・・?
マサ 父さん、やっぱり・・・。
父 違うと言っているだろうが!!そんな訳ない!!私は何もしていない。何も  悪くない!!
マサ 何ムキになってるんだよ!!それに「俺は悪くない」って自分のことばっ   かり考えて、心配じゃないの!?
父 言いがかりをつけるな!!心配に決まってるだろ!!
マサ でも!!
父 黙れ!!
 
    (気まずい沈黙)
 
父 ・・・・すまん。
マサ ・・・・。
 
    (やはり沈黙、しばらくして警官入ってくる)
 
父 ・・・・!!妻は!?
警官 ・・・・・・。
父 ・・・・まさか、妻の身に・・・・!?
警官 ・・・残念ながら、奥さんは水死体で発見されました。
父 ・・・・そんな・・・・なぜ・・・・。
警官 分かりません。遺書のようなものは内容ですが・・・・。
 
    (マサユキ倒れる)
 
父 マサユキ!?どうした!?
警官 救急車だ!!救急車を呼べ!!
父 マサユキ!?マサユキ!?
 
     暗転
     警察はける
 
     明るくなる、スポット
 
マサ 気が付いたら病院にいた。気絶した時に頭を打ったらしく、検査すること   になった。家に帰った時、家はほこりだらけだった。それを見た瞬間、涙   が溢れた。なぜか僕は母が死んで救われたかどうか気になった。そして一   ヶ月経った。
 
父 マサユキ・・・。叔父さん覚えてるか?
マサ うん。いつもニヤニヤしてる、陽気な人でしょ。
父 あぁ・・。あの叔父さんな。あと半年だそうだ。
マサ 半年って・・・。
父 半年の命だそうだ。
マサ そんな・・・・。
父 叔父さんは病院を嫌って、自宅で静かに暮らしている。
マサ ・・・・。
父 見舞いに行って来てくれないか?父さんは叔父さんに嫌われてるから・・。
マサ ・・・・分かったよ。行ってくる。
父 悪いな。
マサ 別にいいよ。・・・でも最近、悪い事ばかり続くね。母さんは突然死んじ   ゃうし、今度は叔父さん。それに母さんがいなくなったショックなのか、
   最近体がだるいし。
父 そうか・・・。気を付けて行けよ。
マサ うん。
 
    (マサ、去っていく。父、座りながら頭を抱える)
 
父 ・・・あぁ、神は無情だ。凄い命ばかりかもう一つの命も奪うのか・・・。
    (顔を上げる)
 
父 すまない。マサユキ・・。
     暗転
 
     マサは悲しみを抑えて扉を開ける。そこには叔父が足を下ろしていて     マサはすっ転ぶ。
 
マサ ・・・いってぇ・・・。
 
    (叔父は豪快に笑う)
 
叔父 ひっかっかたひっかっかた!!
マサ 何するんですか!?
叔父 おいおい、余命いくばくも無い病人に、そんな大声をだすなよ。
マサ あっ!すみません。でも余命いくばもない人間はこんな事しません。
叔父 なんで?
マサ なんでって・・・なんでもです。
叔父 別にいいじゃないか。死期が近づくと暗くならないといけないのか?
マサ そういう訳じゃありません。けれど・・・。
叔父 けれど?
マサ 怖くないんですか?
叔父 怖くなんかないよ。
マサ そんなのウソです。死ぬ事が怖くない人間なんていません。・・・あっ、すみません。こんなこと言って・・・。
叔父 気にしなくていいよ。でも怖くないってのは本当だよ。
マサ なぜですか?
叔父 死なんて変化の一つじゃないか。何十年も前から分かっていたことだし。
マサ ・・・ウソついてるでしょ。
叔父 なんで?
マサ ・・・そんな割り切れるワケないじゃないですか・・・僕の母だって・・・。叔父 そういえば亡くなったらしいな。すまないな。葬儀に行ったとはいえ、お悔やみの一つも言わないで・・・。
マサ 気になさらないでください。
叔父 すまない。
マサ 本当にいいですから・・・。
叔父 ・・・。
マサ それと、母のことですが僕は未だ、なんで自殺なんてしたか知らないんです。叔父さんも死は怖くないなんて言ってますか、死にたい訳じゃないでしょう?
叔父 まぁ・・・。
マサ でも母さんは自分で自分を殺した。何でなんでしょう。
しばらく沈黙
叔父 ・・・実はな、一ヶ月前お前の母さんはここに来たんだ。
マサ えっ・・・!?
叔父 それで生きてることに疲れてきたらしい。それで・・・
マサ そんな・・・あんなに元気だったのに・・・。
叔父 信じられないか?
マサ ・・・はい。
叔父 でも事実だよ。
マサ ・・・母は、不幸せだったんですか。
叔父 でも、それももう終わった。
マサ えっ・・・。
叔父 母さんのやり方は間違っていたけれど、死ぬことは確かに一つの救いじゃないかな。
マサ 自殺することが救いなんですか!?
叔父 違う。死ぬことがさ。
マサ ・・・でも、納得できません。
叔父 ・・・確かに生きることは素晴らしいことだ。死ぬことなんかよりずっと。でも、だからといって生きることにしがみつくなんて、情けないじゃないか。さっきもいったけど、死は自然なことなんだ。恐れるものじゃないか。
マサ ・・・。
叔父 生きていくってことは、死んでいくってことなんだ。生きるってことは死ぬこと、死ぬってことは生きるってこと。
マサ そう・・・ですね。そうかもしれません。
叔父 だから母さんのことは、もう気に病むな。あれはあれで、自然なことなんだ。
マサ ・・・すみません。お見舞いにきたのに、慰められてしまった。
叔父 気にするなよ。
マサ すみません。
叔父 気にするなって。
マサ ・・・死ぬ間際には呼んでくださいよ。
叔父 言うようになったじゃないか。
マサ そうですね。
叔父 ・・・強く生きろよ。
マサ くさいセリフだ。
叔父 ほっとけ。
マサ でも、ありがとうございます。
叔父は笑って、マサの頭をなでる。
マサ じゃぁ、失礼します。
叔父 あぁ、気を付けてな。
マサ はい。
マサ、去る。叔父は真剣な表情で、ベッドに座る。
叔父 ・・・死が怖くない訳ないよな、マサ。その通りだよ。
しばらくして、父が入ってくる
父 ・・・うまくやってくれたか?
叔父 あぁ、ある程度はな。
父 すまない。こんな役を押し付けて。
叔父 なーに、これでも俺は演劇やってたんだ。このくらい楽なもんさ。
父 本当に、すまない。
叔父 ・・・もういいよ。確かにあの葬儀の時、お前がこの話を持ち掛けた時には驚いたが、理由が理由さ。
父 ・・・。
叔父 まさか、あの若さでガンになるなんてな。
父、泣きはじめる
叔父 泣くなよ。お前は立派な父親だ。母を失った直後、余命半年だなんて宣告されたら、それこそ自殺しちまう。でもこうやって死の直前の心構えを教えとけば、より良い人生が送れる。そう言ったのは、お前だぞ。
父 あぁ、それで妻の自殺の動機まで勝手に作って・・・。
叔父 本当のことだけが、幸せになれるとは限らないよ。
父 そうだといいが・・・。
叔父 それにさ、きっとあの子の余命が分かったのは、奥さんのおかげだよ。あのショックからの検査で分かったんだから。
父 そう思いたい。
叔父 ったく。本当泣くのやめろよ。大丈夫、あの子は強い。きっと最後まで生きていくさ。
徐々に暗くなっていく。
おしまい。