『運命の部登録』 藤島 川畑
 
 
 
幕開き。
校門を少し入ったところに新入生の女の子が二人。
 
タカコ ねえねえ、明日部登録の日よねぇ。
アヤ えっ、明日なの?私、知らんかったわ。
タカコ もー、アヤったら。ホントのん気なんやからねぇ。
アヤ ごめんごめん。でもどうせ入るんやったら、同じ部活がいいわよねぇ。で、タカコは何部に入ろうと思ってるの?
タカコ 教えてあげても良いけど…絶対笑わん?
アヤ うん。だから、お・し・え・て。
タカコ 実はね…私高校に入ったら演劇部に入ろうと思っていたの。私、上戸彩みたいに皆のアイドルになりたいわ。
アヤ やだー!!タカコ冗談キツイわ!アハハハハハハッ!タカコのどこが上戸彩なのよ?どっちかっていうと女子プロレスのビューティー鈴木って感じよねー。アハハハハッ!
タカコ アヤのウソツキ…。笑わないって約束したのに…(泣きまね)
アヤ えっ…ひょっとして、本気だったわけ!?ごめんごめん。つい冗談かと。
タカコ 私こう見えても、松たか子のはとこの友達なのよ!
アヤ それがどーいう関係あるわけ?
タカコ へへへ。それはともかく、アヤは何部に入りたいのよ。
アヤ うん。私はね、バレーボール部に入ろうと思ってるんだ。
タカコ …ということは、あなたも「アタックNo.1」に影響を受けたというわけ?
アヤ そのとおり!
二人 (笑いながら歌う)苦しくったって〜悲しくたって〜コートの中では平気なの〜だって女の子ですもの〜!
タカコ でも、私運動神経ゼロだしアヤと一緒にバレー部なんて絶対無理だわ。ねえ、そんなこと言わずに演劇部に入りましょうよ!
アヤ イヤよ。だって演劇ぶってオタクの集団でしょ?私お嫁にいけなくなっちゃう。
タカコ もうアヤったら大げさなんだから。
 
すると、向こうから二人の演劇部員がやってくる。
 
ケンタ おーっ、そこにいる一年生!僕達と一緒にドラマティックな青春を送ってみないかい?
タクヤ 来たれ若者!演劇部へ!
ケンタ っていうか、お前だって高校3年の若者だろうが。
タクヤ じっ、実は俺高校入試に2浪してるから、本当は20歳なんだ。今まで黙っていて済まない…。
ケンタ どうやら俺は君の純粋なハートを傷つけてしまったようだ…。許せ友よ!
二人 (抱き合って)友よー!!(号泣の真似)
タカコ いきなり芝居始まっちゃったよ。さすが演劇部!
アヤ って感心している場合かよ。やっぱり演劇ぶってヘンタイの集団だわ。私やだー!!
ケンタ 頼む君達、次の公演にキャストが足りないんだ!!
タクヤ ね、僕達と一緒に青春してくれるよね??
アヤ もう、こんなヘンタイさんたちは放っておいて体育館へ行きましょ。(タカコの腕を掴んで行ってしまう)
タカコ ちょ、ちょっとー!
 
暗転。
 
明転。体育館。ボール籠がある。
 
ユキエ (下手からやってきて)あらっ、あなた達ひょっとして1年生なの?
アヤ ええ、そうですけど。
サチコ (やはり下手からやってきて)ほ、本当なの?
アヤ 本当です。
ユキエ (サチコに向かって)先輩、とうとうやりましたね!久々の新入部員です!
サチコ 苦節365日、ついに私達の努力が報われる日がきたわ!(タカコ・アヤの手を取って)さあ、今日から一緒に頑張りましょうね!
タカコ ちょ、ちょっと待ってください!私まだ入部すること決めてませんからぁ!!そもそも、このバレー部って部員は何人なんですか?
ユキエ 何人って…見れば分かるでしょ。先輩と私の二人だけに決まってるじゃない。
タカコ えーっ、ウソでしょ!?それじゃぁ、試合できないじゃない!
サチコ 何を言うの?試合をするばかりがバレーボールじゃないわ。白いボールをいつまでもいつまでもパスし続ける。いつしか二人の心は一つに溶け合い、限りない友情が生まれる。バレーボールこそ最高のコミュニケーションツールだわ!!
ユキエ 先輩、素晴らしいわ!
アヤ 先輩、素晴らしいわ!
タカコ 何言ってるのよ、アヤ。私試合に出れないバレー部なんでゴメンだわ。もう行きましょう。(アヤの腕を掴み行ってしまう)
 
暗転。
 
明転。土手に二人座っている。
 
アヤ ねぇ、どうしてあんた演劇部にこだわるの?
タカコ うん。私の家族はね、みんな厳格で笑う事なんて一つも無かったの。ある日ね、お父さんが3枚のチケットをもらってきたの。確か「オスカー」って題名の芝居だったわ。せっかくだからって、家族3人で見に行く事になったのね。とっても面白いんだもん。そのとき初めて、家族が1つになれた気がしたの。私、思ったわ。俳優になって1度両親を笑わせたい。私、家族の繋がりを戻したいの。
アヤ ふぅん。そうだったんだ。全然知らなかった。貴方の気持ち、分かる気がする。
タカコ ありがとう…。ところでアヤにもバレー部にこだわる理由があるんじゃないの?
アヤ 聞いてくれる?
タカコ うん。
アヤ 私のお母さんね、私が小学生のときに死んじゃったの。お母さん、ママさんバレーしてたのよね。遺品の中に使い古しのバレーボールがあったの。お父さんは時々、そのボールで遊んでくれたわ。二人でずーっとパスをするの。私幸福だった。お父さんと私、そしてお母さんの3人でバレーボールしている気がしたから。
タカコ そうか。それでバレーボールが好きなのね。
アヤ うん。
(沈黙)
タカコ 二人で一緒な部活に入ろうと思ったのにね。
アヤ なかなか上手く行かないわよね。
二人 明日の部登録、どうしようかなぁ。
 
暗転。
 
明転。翌日の校門前。
 
ケン さぁさぁ、今日こそ年貢の納め時!
タクヤ 皆の者、演劇部に入りませぃ!
ユキエ どうして時代劇になっているのよバーカ。オタクのくせに生意気だわ。
サチコ この1年生はね、私達がゲットしたのよ!
ケン うるさい!お前達だってバレーオタクのくせに!
タクヤ さぁ、君達。どっちに入るのか決めてくれたまえ!
4人 さぁー、どっち!?
(沈黙)
タカコ …あのね。私バレー部でも良いわよ。
アヤ 何を言い出すのよタカコ。
タカコ 昨日のアヤの話を聞いたらさぁ、私自分の事ばっか考えていたんだって分かったの。一緒に友情のパスボールしましょう。
アヤ タカコのばかぁ!!
タカコ えっ…?
アヤ 私の方こそ、今日は演劇部に入ろうと思って学校に来たのに…どうして他人の好意を無にするのよ…(泣く)
タカコ ごめん…(沈黙)
アヤ …私の方こそゴメン。怒るつもりなんて全然無かったの。だってアヤったらあんまりお人好しすぎるんだもの。
タカコ それはお互い様よね。
アヤ 本当だわ。ヘヘヘ。
タカコ もう一緒な部活に入るのやめようか?だって私は私。アヤはアヤだもんね。
アヤ そうよ。タカコは演劇部に入りなよ。私はバレー部に入るからさ。(手をとる)
タカコ うん。
ケン おぉっ、ベリードラマティック!!俺たちすごく感動したぜ!!
タクヤ バレー部の諸君、さっきはベリーソーリーだったね。これからはお互いに仲良くしようぜ。
サチコ 私も本当の事言うとね、演劇部の皆に憧れていたの。ホント自由な人たちだから。…私決めたわ。今日から演劇部に入る!!
アヤ・ユキエ えーっ!?それじゃぁ、私達どうなるんですかぁっ!?
サチコ マツダイラ君。一緒にお芝居しましょう。
ケン おぉっ、マイハニー!!
(二人は勝手に行ってしまう)
全員 待ってくださーい!!
(全員、二人を追いかける)
 
幕。完。