「雨あがり、咲いた花。」
 
舞台中央にAが立っている。真っ暗な中でAにスポット。Aはビニール傘を持っている。
A 「普通って云うのが…分からないんです。オイラ、昔から周りの人に[変わってる]って云われてきて。
自分の中でもそんなキャラが確立してきて。 …気に入ってるんです。 皆と同じに群れてるのは厭
だし。 でも最近、オイラは[変わってる]自分を自作自演して良いのかなーって思うんです。
本当の自分にも自信を持てるように成らなきゃいけないんだろうけど…自分で作った自分の方が、
本当の自分よりも心地良いんです。」
青い照明がつく。Aがビニール傘を開く。
A 「[変わってる]自分を保ち続けるために、オイラはビニール傘を持つんです。ビニール傘は、
オイラを守ってくれる唯一の武器なんです。」
A、寂しそうに笑う。 
・暗転
教室。何人か生徒が座っている。しかし、Aには気付いていない。BはAのすぐ近くに座っている。
A 「オイラには親友が一人います。彼女はオイラにとてもよく似ていて。考え方までそっくりで。
まるで双子の片割れのように思っているのです。」
B 「ねぇ。武器、新しいの買ったの?」
A 「うん、だって前の、飽きちゃったんだもの。水玉模様が良いな、と思って。 素敵でしょ。」 傘をクルクル回す。
B 「可愛い。」
A 「バラのピン、買ったの?」
B 「うん、だって前の、飽きちゃったんだもの。」 
A、B笑いあい、フリーズ。
A 「彼女にも、オイラのビニール傘のようなモノがあります。それは、前髪につけているバラのピン。
"武器…とまではいきませんが、""彼女""を守ってくれる重要なアイテムなのです。」"
B、鏡を見ながらゆっくりと話し出す。自分に言い聞かせるように。
B 「このバラのピンを前髪につけると、バカっぽくなるでしょう? …それでいいの。
少しバカな女の子を演じているの。前髪もね、なんだか最近アンチ・カールな女の子が増えているぢゃない。
でもね、それは駄目なの。こうやって、キューピーちゃんみたく少しカールした前髪が一番可愛いの。
分かって貰えなくていいの。自分が納得できればいいの。」
A 「彼女は毎日鏡を見ながら云うんです。オイラに、そして自分に。
彼女の云っていることは、時々オイラにも分からなくなります。でも、良いんです。彼女が納得できれば。」
・暗転
"職員室。先生とA,Bが向き合うように座っている。Aはビニール傘を持っている。Bはバラのピン。"
B 「ある日、私達2人は先生に呼び出されました。」
A 「先生はこう云いました。」
先生 「もう少し、社会に対応できるようになりなさい。」
B 「でも先生、私達は2人だけで良いんです。」
先生 「クラスの皆も困っているんですよ。あなた達2人の事が分からない、って。」
A 「オイラは別に無理して分かって貰わなくても良いです。順応性なんて要らないと思います。」
B 「2人だけで十分なんです。」
先生 「そんな我が儘云っていられるのも高校生までです。先生はあなた達2人の事を心配して云っているのよ。」
A 「有り難うございます。でも、無理なんです、オイラ達には。」
先生 「…兎に角、一度考えてみなさい。 バラもビニール傘も、あなた達を守ることは出来ないの。」
"先生、立ち上がりハケる。 残されたA,B、顔を見合わせる。"
B  「…先生は、分かってないよ。」
A 「一生かかっても分からないよ、多分。他人だもの。」
B 「必死なのにね。私達だって。」
A 「先生は上手に生きられる人だもん、無理さ。」
・A、傘を開く。
B 「…時々ね、自分が消えちゃいそうになる。」
A 「うん。」
B 「だから少しでも自分を主張するために、[変わってる]を選ぶんだよね。」
A 「否、選択肢なんて無いさ。オイラ達には、皆が選ばなかった残り物しか手に入らないんだ。」
B 「消えたくないもの、どんな手段でも使うよ。」
A 「ビニール傘が有るしね。」
B 「バラのピンが在るしね。」  2人、笑い合う。
・暗転
雨の音。ビニール傘をさしながらA、話し出す。照明は青。
A 「オイラがビニール傘を持つ理由。 あれは中2の雨の日。
あの頃からオイラの順応性は消え失せていて、皆と同じで居ることに疲れてしまったんだと思います。
そして、自然と弱い立場に置かれてしまって…。 その頃はオイラもオイラなりに普通でいようと努力
していたんです。 でも、無駄でした。頑張れば頑張るほど、クラスメートが離れていってしまうのです。
…死のうと思いました。
どうやって死ぬかを考えている途中、ゴミ捨て場に、一本のビニール傘が捨ててありました。
人々の需要に応えるために努力して安くなって脆くなってしまったビニール傘。
なんだか、オイラのようで。見捨てる事が出来ませんでした。
ビニール傘はオイラの分身。ビニール傘を持っていれば、オイラはオイラが消える感覚を
感じることがありませんでした。 …少しだけ、生きていられる気がしたのです。」
A、ハケる。すれ違うようにBが入ってくる。バラのピンがたくさん入っている箱を持っている。
照明は緑。箱の中のピンを一つずつ出して、眺めながら話し出す。
B 「小さい頃から大人しい子供でした。嫌なことがあっても、顔に出したりはしませんでした。
でも、やっぱり不器用で、溜まったストレスを吐き出すことを知らなかったんです。
すごくたくさんの事を考えて、頭の中をグルグル回転させて、悩んで、悩んで。
小さな事で悩んで。いつの間にか人と話すのが厭になってしまったのです。
落ち込みたくないから人に会わずに閉じこもって。。 そんな時、大好きなおばあちゃんから
バラのピンを貰ったのです。…魔法のバラのピン。これがあれば人と会話できる、笑うことだって
出来てしまうのです。だって、このピンをつけていれば、少しバカな子に成れてしまうから。
悩んでジグジグしている私で居なくても良くなるから。バラのピンをつけている時、私は
少しバカな私を演じているのです。…心地良い違う自分で居るために私は、沢山バラのピンを
買います。今日も、明日も、死ぬまでつけ続けるために。」
ピンを箱にしまって、蓋を閉じる。いつの間にかAがいる。
A 「明日、買い物にゆかない?」
B 「うん、いいよ。」
A 「暑くなってきたから、可愛いビニール傘が増えていると思うんだ。」
B 「白いバラのピンも、探そうかしらん。」
A 「…普通の子はどんな事を考えて毎日過ごすのかなぁ?」
B 「さぁ。先生なら知っているんぢゃない?」
A 「…別にいいや。」
B 「そうだね。」
しばらくの沈黙。Aが突然話し出す。
A 「全ての人を同じ目で見ようとするから駄目なんだよ。」
B、首をかしげる。
A  「自分とは考え方が全く違う人達が居る、って云うのを認めれば良いんだよ。そしたら、[普通]
とか、[変わってる]っていう言葉は無くなるんぢゃ無いかな。自分の考えを人に押しつけて、
[普通]とか、[変わってる]とか分類するなんて、非道いことだよ。」
B 「ぢゃぁ、私達に[普通]とか、[変わってる]って言葉は要らないね。」
A 「うん。」
・暗転
"A,Bが舞台中央に並んで立っている。"
B 「私達は、私達なりに答えを出してみた。だからといって何が変わるわけでなく、私は今日も
枯れないバラを前髪に飾る。 私が今一番好きな私で居るために。」
A 「このまま、メリーポピンズのように、ビニール傘ひろげて、ゆるりゆるりと落ちていくんだ。
いつ底につくかは分からない。 でも、、ビニール傘で落ち続けようと思う。
オイラが今一番好きなオイラで居るために。    オイラ達は、バラのピンも、ビニール傘も手放さない。
                                             
 
 
                                                    end.